サンタ通信No258(01)表 R3.01.18発行

平穏な年になりますように

 新しい年が始まりました。新型コロナウイルスの流行が収まらず,緊急事態宣言を出してみたり,そのせいで旅行業界や飲食業界の業績が落ち込むとGo To キャンペーンを打ち出してみたり,コロナの流行が再び増加したら,緊急事態宣言を再度出してみたりと,コロナへの対応策が場当たり的な印象を受けます。まだまだこの状況は続いてしまいそうです。無症状の人でも周囲の人に感染させる力がありますので,流行を拡げないためには,体調が悪い人と接触をしないようにするのはもちろん,元気な人との接触でも,細心の注意が必要です。他の国のように,感染のコントロールが不可能になって,外出禁止命令を出すような状況になれば,経済は大きく落ち込みます。経済を守りながら,流行も抑えるためには,すべての人が生活の自由度を少しずつ制限しながら,感染防御を心がけることです。今年はワクチン接種が始まります。変異種に効くのか不明な点も残りますが,ワクチンが大きな力になることは間違いありません。今年が新型コロナの峠を越えた輝かしい年になることを祈りたいです。

 さて,最近1週間(1月4日〜1月10日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは,感染性胃腸炎4人でした。次いで,RSウイルス感染症1人でした。大部分の人がマスクをして感染防御を心がけているため,一般の感染症は大きく抑えられていて,インフルエンザもほとんど流行がありません。鹿児島市内では,1か月前に1人だけ診断されていますが,その後は現在まで1人もいません。コロナ対策が今後も続けば,今年はインフルエンザがほとんど発生しない珍しい年になりそうです。これだけ感染症全般の病気が抑えられていますが,新型コロナだけは抑えることができません。それだけコロナウイルスは感染力が強いということが分かります。さらに,症状がない人でも感染させる力を持つことが,流行を食い止められない大きな要因です。インフルエンザのように発熱などの症状が出れば,他の人へ感染させないように,隔離することができますが,無症状の人は,検査で発見するしか方法がありませんので,今のように症状がある人だけを検査していては,流行を食い止められません。唾液で検査ができるのですから,だれでも自由に検査を受けられる体制になれば,無症状で感染力のある人に有効な対策を取れるのではと思います。

 感染性胃腸炎の患者さんも時々いらっしゃいます。明らかに診断できた人だけ,集計していますが,おそらく感染性胃腸炎だろうという人も多いです。ロタウイルスやノロウイルスなどによるもので,飛沫感染はなくて,糞口感染が主体です。マスクもアルコール消毒も効き目はありません。嘔吐や下痢などの症状があれば,流水でしっかり手を洗うことが必要です。寒い季節は,手洗いが雑になりやすいですが,嘔吐や下痢の症状があれば,手洗いをさらに丁寧に行ってください。また,症状が消失しても1か月くらいは便にウイルスが排出されますので,排便後や食事前には手洗いをしっかり行いましょう。

 

2月14日(日)は当番医です。救急患者さんが優先になります。

 

サンタ通信No258(01)裏 R3.01.18発行

新型コロナウイルスワクチンについて

 コロナウイルスに対して,全世界でワクチン接種が始まりました。これまでに受けたことがないワクチンですから,接種は受けたいけど大丈夫かなと誰もが不安を持っていることでしょう。不安を少しでも和らげるために,ワクチンについて少し勉強をしてみましょう。

 従来のワクチンは,不活化ワクチン・生ワクチン・トキソイドの3種類がありました。不活化ワクチンは,病原性をなくしたものです。体の中で病原体が増えることはありません。生ワクチンは,病原性を弱めたウイルスや細菌を接種し,それらが体の中で増えることによって免疫力がつきます。トキソイドは,強い毒素を産生する細菌の毒素だけを取り出して無毒化し,ワクチンにしたものです。最初に接種が始まるファイザー社のワクチンは,どれにも属さないmRNAワクチンと言われるものです。どのようにして働くワクチンかというのは,かなり難しい話になります。

 mRNA(メッセンジャーRNA)というのは体の中でタンパク質を作るための設計図となる遺伝子のことです。新型コロナウイルスの遺伝子情報をもとに,ウイルスの表面のspike(トゲ)の遺伝子を作り,ヒトの体の中にワクチンとして接種すると,設計図通りに人の体の中で,ウイルスのトゲの部分のみを作ります。免疫を担当する細胞がそのトゲを認識し,トゲに対する抗体を作ってくれます。その結果,本物のコロナウイルスが侵入してきた時に,免疫細胞が働き始め,抗体がウイルスを無力化してくれます。遺伝子技術が進み,自由に遺伝子操作ができる時代だからこそ,このようなmRNAワクチンができたのです。ワクチンを造るのに最低でも数年かかっていたものが,遺伝子技術を使うワクチンだと,1年もかからずに製造できます。ただ,これまでにないワクチンだからこそ,安全性の確認が大事です。これまで報告されたワクチンの効果は,95%の発症予防効果があったと言われています。副反応は一般的なワクチンと同じように,接種部位の疼痛や発赤がみられます。ごくまれにアナフィラキシーという命にかかわるような重症のアレルギー反応を起こす人がいます。これまで接種したイギリスやアメリカでは10万人に1人の割合で起こったと報告されています。今使用されているインフルエンザのワクチンと比べると,10倍くらい起こる確率が高くなりますが,ワクチンと因果関係が証明された死亡例はこれまでに報告がありません。新型コロナウイルスの怖さを考えると,やはりワクチンを受けておく方が良いでしょう。

 接種の優先順位は,医療関係者・高齢者・基礎疾患を有する人とされています。2月末から順次接種が始まるでしょう。接種場所については,医師会から当院へも「接種が可能か?」の意向調査が来ていましたが,-75℃の超低温でワクチンを保管し,ドライアイスを詰めた保冷ボックスで接種場所に運びます。その保冷ボックスでの保管は10日間が限度となるため,10日の内に使い切らなくてはなりません。ワクチンの最小単位は975回接種分で,最低でも1日100人の接種をする必要がありますので,小さな診療所ではこのワクチン接種は困難です。大きな接種会場で,複数の医師が接種を行う,昔の集団接種の形になると思われます。筋肉注射になりますし,接種後の経過をみる必要もありますので,準備は大変だろうと思います。もちろん,ワクチンを接種したからもう大丈夫とはなりません。流行している間は,マスクでの予防や三密を避ける必要があります。接種費用は全額公費負担になります。