サンタ通信No239(06)表 R1.06.18発行

手足口病が大流行

 今年の梅雨はこれまでのところ,雨の日が少ないです。梅雨前線が沖縄・奄美あたりに停滞していることが多く,たまに南九州まで北上した時に,まとまった雨を降らせています。ちょうどお花が終わったばかりの鉢植えの紫陽花があったので,直植えにしてみました。しっかり根付くまでは毎日水遣りが必要です。水切れになりやすく,少し目を離すとぐったりとなっていたので,天気予報を見ながら,雨が降らない日は,朝晩に葉っぱの状態を見ながら水遣りをしました。植物は正直です。雨が降った後は葉っぱが元気に立ち上がりますが,水が切れそうになると,葉っぱは垂れてきます。まるで乳幼児と同じです。子どもは水分が摂れなくなると,すぐにぐったりしてきます。でも,そんな時に点滴を500mlもすれば,たちまち元気になります。子どもを看病する時も同じように,何回も顔色を見ながら,ぐったりしていないか,水分や栄養が摂れているかを確認します。高熱があっても,機嫌が良くて,水分がしっかり摂れる時は,あまり心配いりません。熱が出ているということは,入り込んだ病原体に自分の体がしっかり反応して,防御体制ができたというサインなのです。

 さて,最近1週間(6月10日〜6月16日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは手足口病で,週29人でした。次いで,ヘルパンギーナ3人,伝染性紅斑3人,水痘2人,RSウイルス感染症1人でした。手足口病が大流行しています。今がピークと思われます。今流行中の手足口病は,これまでの典型的な症状とは少し違う発疹の形状をしています。よく診る手足口病は,手のひらと足の裏に小さな水疱がみられ,発熱もほとんどないことが多かったのですが,今流行しているものは,手のひら,足の裏よりも,膝や肘関節に多く,口腔内の所見も口内炎が口の手前に少なく,のどの奥に多くみられます。このため,手足口病の主なウイルスであるコクサッキーA16やエンテロウイルス71とは違うウイルスが起こしているのだろうと思われます。高熱になる人が多かったり,発疹の範囲が広かったり,たまに爪の症状が出る人がいたりしますので,コクサッキーA6型のウイルスが原因かもしれません。さらに,今流行している手足口病では,発疹が出てくるタイミングがいつもより遅い印象があります。発熱後1日くらい経過してから,ようやく発疹に気づくこともよくあります。そのため,発熱で当院を受診した時には,のどの奥に口内炎をみとめ,夏カゼのヘルパンギーナと診断した後,翌日に手足に発疹が出現して,手足口病と病名が変わることがよくありました。ただ,手足口病もヘルパンギーナも同じ系統のウイルス感染症で,原因ウイルスは同じで,出てくる症状が違うだけです。そのため,両疾患とも有効な治療方法はありません。安静にしながら,のどの痛みで食事が摂れないことがあるので,のどに優しい水分補給や食事を考える必要があります。OS-1のような経口補水液やイオン飲料が飲めるようなら,そんなに心配はいりません。保育園についても,解熱した後,食事がいつもと同じようにできれば,発疹が残っていても集団生活は許可しています。ただし,感染力は残っていて,2週間くらいはウイルスが便中に排出されます。周りの人に感染させないためには,症状が回復した後も2週間は,本人や周囲の人がしっかり手洗いを続けることが大切です。

7月7日(日)は当番医を担当します。救急患者優先になります。

8月6日午後〜8月14日は休診です。8月15日は診療します。

サンタ通信No239(06)裏 R1.06.18発行

りんご病(伝染性紅斑)

 今週3人の伝染性紅斑を診断しました。この病気は,パルボウイルスB19が起こす病気で,りんごのほっぺのような赤い斑点が頬に出てくるため,りんご病とも言われます。園児から小学生に起こりやすく,この時期に多くなります。これまでかかったことがなければ,大人も感染します。感染経路は,飛沫感染と接触感染で,感染後1週間でウイルス血症を起こし,その後このウイルスに対する抗体が作られ,ウイルスの数が減少してきます。感染後2週間で頬の紅斑が現れ,それと同時かやや遅れて,四肢に網状またはレース状の発疹が現れます。発疹は1週間で消えます。大人がかかると,頬の紅斑と同じ時期に関節痛を訴えることがあります。この伝染性紅斑は,発熱もなく,発疹が中心の症状ですから,あまり重篤感がない病気ですが,ウイルスは気道から感染し,骨髄の赤血球の若い細胞に入り込みます。そのため,骨髄で赤血球の生産が一時停止してしまいます。普通の人の赤血球は120日の寿命があるため,赤血球が一時的に生産されなくても影響はほとんどありません。しかし,赤血球が壊れやすい病気をもつ人は,赤血球の寿命が極端に短く,重度の貧血に陥ります。慢性溶血性貧血と診断されている人にとっては怖い病気なのです。さらに,妊婦が感染し,胎児にまで感染が及ぶと,胎児に重症の貧血が起こり,流産や胎児の異常を引き起こすことがあります。保育所や学校などで働く妊婦さんにとっては危険なウイルスですが,残念ながら感染する時期にこの病気だとわかる手がかりはありません。感染して1週間経った頃にこの病気だったと診断されますので,事前に感染予防することは不可能です。妊婦さんが感染しても,胎児が正常に発育し,出生後も正常に発育する症例も多いので心配し過ぎずに,胎児の様子を超音波検査などで,注意深く経過をみることが大事です。

 この伝染性紅斑と診断された時には,ウイルスはほとんどいなくなっていますので,集団生活はできます。ただ,頬の紅斑が消えた後,日光や機械的な刺激で再び紅斑が現れることがありますので,強い日差しを浴びたり,激しい運動は診断後1週間くらいは避けた方が良さそうです。治療については特になく,発疹の痒みが強い時に,痒み止めを処方しています。

異物誤飲について

 小児科では,子どもが家庭内にある,いろいろな物を誤って飲み込んだけど大丈夫だろうかという相談が多く寄せられます。私も市立病院に10年以上勤務していましたので,様々な異物誤飲を経験しました。ピップエレキバンの磁石部分をはがして数個飲み込んでしまった症例や,ゴキブリ駆除のため家庭で作ったホウ酸団子を飲み込んだ症例など,救急処置が必要になる場合もありますが,ほとんどは様子をみておけば大丈夫なものでした。クレヨンや蚊取り線香,粘土,植物活性剤,シャボン玉の液,乾燥剤のシリカゲルなどは毒性が低く,その場で大丈夫だと伝えられますが,毒性が不明なことも時々あります。先日,保冷剤を食べたという電話がありました。保冷剤は毒性があまり強くない印象を持っていたのですが,確実ではなかったため,救急を扱う病院に電話をするように指示しました。その後,自分でも調べてみました。日本中毒情報センターから出されている情報によると,保冷剤には2種類あり,凍結させるとカチカチに硬くなる使い捨てのタイプと,繰り返し使用する硬くならないタイプがあり,硬くなるタイプは誤飲しても毒性は低く,家庭内で口を拭いたり,口をすすぎ,口の中をきれいにして,経過観察をすること。医療機関の受診は必要なしとされていました。一方,繰り返し使う,硬くならないタイプでは,2009年以前に,毒性の高いエチレングリコールが使用されているものがあり,誤飲で2例の死亡した報告があったため,それ以降は安全性の高いプロピレングリコールなどが使われています。このため,よほど古いものでなければ,誤飲しても心配はなさそうです。毒性が不明なものは大阪中毒110番に問い合わせると,24時間対応してくれます。一般の方が電話すると通話料だけで済みます。つくば中毒110番も電話で問い合わせできますが,こちらは9時〜21時だけの対応になります。残念ながら,医療機関からの問い合わせには,有料でしか受け付けてくれませんので,家族から直接,電話相談してもらっています。