サンタ通信No236(03)表 H31.03.18発行

溶連菌感染症が多くなりました

 3月に入り,暖かい日が多くなってきました。今年の冬は雪が降ることもなく,厳しい冬の印象はあまりなかったですね。花壇の片隅に放置されているシンビジウムが毎年きれいな黄色の花を咲かせてくれます。肥料を与えるわけでもなく,雨の水分だけで生きているのに,感心します。いつもより少し早く咲いているようです。これも温暖化の影響なのでしょうか。今は大きな気候変動がなくても,数百年後,数千年後の人たちが,温暖化で苦労することがないように,地球に優しい生き方を世界中の人々が心がけるようになるといいですね。物にあふれた社会が豊かではなくて,精神的な豊かさにあふれた社会がすばらしいのだと分かってほしいです。

 さて,最近1週間(3月4日~3月10日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは溶連菌感染症で週9人でした。次いで,インフルエンザ4人,感染性胃腸炎4人,伝染性紅斑2人,突発性発疹1人でした。インフルエンザの患者さんは,すべてA型でした。インフルエンザの患者さんが急速に少なくなってきました。このまま終息しそうな印象です。さらにB型もほとんど流行せずに,インフルエンザのシーズンが終わるのではと思われます。これほど早い時期の終息はあまり記憶がありません。病気が流行しないことはとても良いことですが,4月頃までは少し気をつけておくべきだろうと思います。全国的には,まだ警報の水準にある地域がありますし,お隣の宮崎県でもまだ注意報が出ている地域があります。

 溶連菌感染症が多くなってきました。この病気は,溶連菌という細菌による上気道炎やとびひのことです。感染力が強く,兄弟間の感染率は25%と言われています。幼稚園や学校でも集団感染をよく起こします。好発時期は冬と春~初夏に2つのピークがみられ,日本のような温帯地域でよくみられる病気です。症状は,2~5日の潜伏期を経過すると,突然発熱し,のどの痛みを訴えます。この時,のどの奥に赤い出血班や苺のようなブツブツとした舌が認められれば,溶連菌の可能性が高くなります。診断には迅速検査があります。綿棒でのどをぬぐい,10分くらいで陽性・陰性が判定できます。治療は抗生剤の内服により翌日には解熱します。ただ,完全に除菌しないと,すぐに再燃しますので,7日間あるいは10日間の確実な服用が必要となります。薬がよく効いて,あまり心配のない病気のようにもみえますが,まれに免疫機序を介してリウマチ熱や急性糸球体腎炎を起こすことがあります。最近ではリウマチ熱は患者数が激減してきました。溶連菌にかかって無治療でみた場合に3%くらいの割でリウマチ熱が起こるとされていますが,今は診断がすぐにできて,治療もすぐにしますので,リウマチ熱の患者さんはまず診ることはありません。急性腎炎もほとんど診なくなりました。私が医師になった昭和55年頃は急性腎炎で1ヶ月くらい入院している人がたくさんいました。今は,溶連菌による腎炎合併もかなり少なくなっています。以前は腎炎を発見するために,溶連菌感染の2~3週間後に検尿を指示していましたが,最近はむくみや目に見える血尿に注意していれば,検尿は必ずしも必要となっていません。

 感染性胃腸炎は,ロタウイルスやノロウイルスによる嘔吐下痢が主ですが,冬場に多い感染症です。家族に同じ症状が出ていれば,まず感染性胃腸炎と考えて良いでしょう。ロタウイルスのワクチンを皆さんが受けるようになって,この時期に嘔吐下痢の患者さんが減少した印象があります。やはり,ワクチンはよく効いているのだと思います。

 

 3月19日(火)~3月22日(金)は休診となります。代わりに26日(火)を診療致します。

 4月19日(金)~4月20日(土)は学会のため休診です。

 4月25日(木)午後~5月4日(土)まで休診となります。4月23日(火)は診療致します。5月3日(金)は当番医です。5月7日(火)は診療します。

サンタ通信No236(03)裏 H31.03.18発行

どうして予防接種は必要なのか

 日本国内で麻疹(はしか)の患者発生が続いています。2016年に関西空港のスタッフを中心に,38名が集団感染したニュースを,まだ覚えていらっしゃる方も多いと思います。海外から持ち込まれる麻疹が,窓口となる空港や医療機関で拡がってしまうことが懸念されて,海外からの訪日客と接触することが多い場所に勤務する人は,麻疹の抗体を調べ,低い人はワクチン接種を勧めていますが,昨年は1年で282人の患者発生があり,今年は2月24日までに258人と非常に多い数になっています。流行しているのは,大阪府94人,三重県50人,愛知25人,東京19人などです。麻疹という病気は,どうして流行を食い止められないのでしょうか?そもそも,麻疹に感染すると,2週間たってから症状が現れます。その間は本人は元気ですから,海外旅行することも普通にできます。海外の人が日本国内で発病すれば,誰と接触したのかなど,感染防御の対策がとれるのですが,もし,その人が帰国する直前に発症して,体がだるいけど旅行疲れかなと思いながら,空港のカウンターで手続きをして,帰国後1日くらいで発熱して,そこで麻疹の診断がついたとします。東南アジアでは,麻疹はありふれた病気ですので,わざわざ日本に対して,その患者が日本で感染させたかもしれないという情報は日本に知らされることはまずありません。また,発病する前日には感染力があるため,症状が出て,麻疹の診断がついた時にはすでに周囲の人にうつしてしまっているのです。

 日本で感染が確認されると,保健所に届け出て,その人と接触した人たちが発症しないか,2週間経過をみなければなりません。もし,その中で発症した人がいたら,また,その人の周囲の人を2週間見守る必要が出てくるのです。感染力が非常に強いウイルスですので,患者のくしゃみだけでなく,ウイルスが浮遊した空気を吸い込むだけでも感染します。また,インフルエンザウイルスと比べても,感染力は非常に強く,麻疹に対して免疫がない人に感染すると,90%以上の人が発病してしまいます。発症後3日くらいの間は,38℃くらいの発熱とカゼ症状だけで済みますが,4〜8日目は体中に赤い発疹が広がり,高熱になってきます。そこを乗り越えると,発病後1週間で解熱して,発疹も色素沈着を残しながら,薄くなってきます。最初に発疹が出始める頃に,口の中にコプリック斑という白い斑点が出るのが,診断に重要な所見です。体に発疹が出たら,誰でも麻疹や風疹を考えるのですが,それ以前にコプリック斑が見つかれば,少しでも流行を防げます。ただし,最初のカゼ症状が出る時には,もう感染力を持っていますので,早期発見しても予防はできません。かかっていない人がワクチンで免疫をつけるしか,予防できないのです。

 麻疹の死亡率はどのくらいでしょうか?先進国では0.1〜0.2%と言われています。患者1,000人に1〜2人死亡します。今フィリピンで麻疹が流行していて,今年だけで少なくとも70人の死亡者を確認しており,在フィリピン日本国大使館から,フィリピンに居住する人や旅行者に注意喚起が出されています。死亡者の大半は4歳以下の子ども達です。免疫のない人,特に子どもは予防接種を受けることを検討してくださいと通達が出ています。麻疹自体は高熱と発疹が1週間続きますが,水分や栄養をしっかりとれば,ほとんどは自然治癒できます。ただ,基礎疾患のある人や乳幼児がかかると,肺炎や脳炎などの重篤な合併症を起こすことがあり,後遺症を残したり,死亡に至ることがあり,日本でも毎年10〜20人亡くなっています。予防接種のなかった昔は,「はしかは命定め」という言い方をされていて,命に直結する怖い病気だったのです。

 風疹も2月24日までに全国で累計650人と多くなっています。風疹も麻疹と同じように,診断する前に感染力があるため,診断してから隔離しても遅すぎます。風疹は,麻疹ほど重篤な印象はなく,別名3日はしかと言われるように,3日間の発熱と同時期に,全身に麻疹よりも細かい赤い発疹が広がります。ただ,風疹が怖いのは,妊婦さんに感染すると,先天性風疹症候群という心疾患,難聴,白内障などの先天異常が発生する可能性があることです。妊娠1ヶ月の妊婦さんに風疹の症状が出たら,50%に先天性風疹症候群がみられます。2ヶ月だと35%,3ヶ月で18%の発生率です。風疹は症状が表に出ない不顕性感染がありますので,母親には風疹の症状がなくても,赤ちゃんが先天性風疹症候群だったということも起こり得ます。

 麻疹も風疹も予防接種で防げる病気です。自分のワクチン接種歴が不明な場合は,抗体を調べたら接種が必要かどうか,分かります。もし,抗体を持っていなかったら,ワクチンでしっかり免疫をつけておくことが重要です。これまでに麻疹・風疹の予防接種をすで2回に接種している人は,抗体の数値が低くても,さらなる接種は必要ありません。