サンタ通信No235(02)表 H31.02.18発行

インフルエンザは峠を越えました

 2〜3月は受験シーズンですが,明日受験だという人にインフルエンザの診断を告知することが時々あります。抗ウイルス薬を処方し,解熱剤を使って乗り切るしかないのですが,高熱が出ながらの受験は実力が発揮できずにつらいだろうと思います。お隣の韓国や中国では,学歴が非常に大切になるため,受験の緊張感が日本よりも激しくなっています。テレビニュースで韓国の共通試験の映像をよく見ます。この試験で大学入学が決まってしまうため,パトカーが受験生を運んでくれたり,渋滞を起こさないため,公務員の出勤を遅らせたりと,本当に受験戦争ですね。でも,本来は,受験して入学することが大事ではなく,学校で何を学んで,どう成長してきたかが一番大事なのです。そこを卒業したという学歴がものをいうのではなく,学んできたものを評価されて,就職できるような社会になるべきです。アメリカでは入学は簡単だけど,卒業するのが難しいと言われます。学びたい人には門戸を開き,そこで頑張ってきた人だけを卒業させます。それぞれの国の文化がありますので,どの入試制度がいいのかは判断できませんが,人は社会で働き始めてから,どんどん成長していくのですから,学歴だけに流されてほしくないですね。

 さて,最近1週間(2月4日〜2月10日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのはインフルエンザで週31人でした。次いで,溶連菌感染症3人,感染性胃腸炎2人,RSウイルス感染症1人でした。インフルエンザの患者さんは,すべてA型でした。例年なら流行終盤にB型のインフルエンザが出てきますが,今年はB型をほとんどみません。鹿児島市が集計している情報を見ると,B型は1,000人に1人くらいの割合です。昨年はB型の流行が大きかったので,今年は大きな流行にはならないかもしれません。3月になれば,B型の推移がはっきりしてくると思います。

 溶連菌感染症については,少しずつ流行が続いています。大きな流行ではありませんが,春頃まではよく診る病気ですので,インフルエンザに紛れて,熱がなかなか下がらないと受診され,のどが赤く,溶連菌の検査をしたら陽性だったということが時々あります。インフルエンザの時には抗生物質は効きませんので,抗生物質を処方することはほとんどありません。おかしいなと思われたら,まず病院を受診し,インフルエンザの合併症を併発していないか,溶連菌の検査が必要かどうかなど,詳しく調べることが重要です。反対に診察でのどが赤く,溶連菌の検査で陽性が確認され,治療したのに熱が下がらないこともあります。溶連菌なら抗生物質を服用すれば1日で解熱します。下がらない時は,溶連菌以外の病気を併発していることがよくありますので,この時期は溶連菌とインフルエンザ,両方の検査をする場合が多いです。どちらも患者さんにとっては痛みを伴う検査ですが,診断には必要な検査です。なるだけ痛くないように検査をしていますので,ちょっと我慢してくださいね。

 RSウイルス感染症は1年中みられますが,一般の人には,咳が強いだけのカゼですみます。問題なのは,未熟児や新生児・乳児がかかると,重症化しやすいということです。そのため,未熟児にはこのウイルスに対抗するための抗体を月1回ずつ注射して,RSウイルス感染症を予防します。それをしないと,赤ちゃんが呼吸を止めて突然死に至ることがあり,怖い病気だからです。先日,当院で診察した赤ちゃんも生後2週間だったため,呼吸が止まりそうな状態で市立病院まで救急搬送しました。あと数時間遅れていたら危なかったと思われます。咳が出ている人は小さな赤ちゃんと接触しないようにしましょう。

 

3月19日(火)〜3月22日(金)は休診となります。代わりに26日(火)を診療致します。

4月19日(金)〜4月20日(土)は学会のため休診です。

4月25日(木)午後〜5月2日(木)まで休診となります。4月23日(火)は診療致します。

サンタ通信No235(02)裏 H31.02.18発行

インフルエンザの治療は?

 インフルエンザの新薬「ゾフルーザ」が発売された今シーズンは,このゾフルーザを希望される方が多かったです。現在は錠剤だけですので,錠剤が服用できるような年齢の方が適応ですが,1回服用だけで済む手軽さから,需要が増えています。内服薬は,錠剤タイプがゾフルーザ(10mgと20mgの錠剤1〜4錠を1回服用のみ)とタミフル(1回1カプセル,1日2回5日間服用)の2種類。粉薬はタミフル(1日2回5日間服用)のみ。吸入するタイプはイナビル(1〜2キットを1回のみ吸入)とリレンザ(1日2回5日間吸入)の2種類があります。年齢によって錠剤,粉薬,吸入を使い分けます。効き目はそれほど差はありません。どの薬も発熱期間を1〜2日短縮させます。ただ,ウイルスを抑える方法がゾフルーザとそれ以外の薬で異なります。

 インフルエンザウイルスは人に感染したら,20分で細胞内に取り込まれ,8時間で1個のウイルスが100個に増殖します。16時間で1万個,24時間で100万個,48時間で1兆個まで増えます。数千万個に増えたら発熱などの症状が出始めますので,ウイルスが感染して1日半くらいで発熱してきます。発熱してから3日目以降には,ウイルスの増殖はピークを超えて,次第に減少してきます。インフルエンザの薬はこの増殖を抑えて効果を発揮します。ですから,発熱したら48時間以内に薬を使用しないと効かないというのは,ウイルスの増殖が終わった後に,増殖を抑える薬を使っても,効果がないわけです。当然,早ければ早いほど良く効きます。しかし,インフルエンザと診断できるのが,発熱してから12時間後くらいからですので,その頃に診断を行い,直ちに薬を開始する必要があります。

 これまでの薬は,ウイルスが1つの細胞から他の細胞に移っていくのを防ぐ薬でした。新薬のゾフルーザは,ウイルスの増殖自体を抑えます。そのため,この薬は臨床試験で,体内からインフルエンザウイルスが排出されるまでの時間が,タミフルで72時間かかったのに対し,ゾフルーザは24時間でウイルスがいなくなったとのことです。よく効く印象がありますが,耐性ウイルスができやすいことが問題になっています。薬が完成した時に,耐性ウイルスの発生が多いと指摘されていました。耐性というのは,薬が効きにくくなったウイルスですが,このウイルスがどのような作用をするのかは,まだ不明です。これからいろいろなデータが集まれば,薬の評価がしっかり判定できるものと思われます。小児科学会からの提言としては,このゾフルーザについてはまだデータ不足で,現時点では検討中とされています。当院で処方した患者さんで,それほど薬が効かなかったという話はほとんどありませんでした。「他の病院で処方されたゾフルーザが効かずに熱が下がらない」と当院へ駆け込む人がたまにいらっしゃいます。ただ,薬をどの時点で服用したのかが一番大事なポイントですが,発熱後48時間ぎりぎりで服用しても,ほとんど効かないのは分かっていますので,耐性ウイルスなのか,服用のタイミングの問題なのか,はっきりさせる必要があります。当院では発熱後1日半過ぎていれば「薬があまり効かないので,このまま薬を使わずに経過をみましょうか。」とアドバイスさせてもらっています。

 タミフルやイナビル,ゾフルーザなどの薬を使わなくても,インフルエンザは自分の体が治してくれます。人間の体には,細菌やウイルスに対して戦ってくれる免疫という働きがあるのです。例えば,はしかや風疹にかかった後は,一生,はしかや風疹にかかることはありません。これは免疫が働いて,はしかのウイルスが体に入ってきても,敵だと認識して攻撃・撃退してくれるからです。薬の作用は,病気を治すというよりも,細菌やウイルスを抑え込んで,体が撃退するのを手助うだけです。そのため,インフルエンザの場合は,薬を使うと発熱の期間が1〜2日短くなります。薬のおかげで,インフルエンザが軽くてすんだと,皆さん喜んでいますが,軽くすんだ場合は,インフルエンザに対する免疫も少ししかできません。薬を使わずに長く高熱に苦しんだ場合は,免疫も強化されますので,しばらくはインフルエンザにかからなくてすむのです。薬で軽くすんだということは,良いことばかりではないということですね。ただし,基礎疾患を持つ人や乳幼児など,インフルエンザが重症化しやすい人は出来るだけ薬を使用して軽くすませた方が良いです。小・中学生は自然経過で様子をみることも,一つの選択肢となり得ます。

 インフルエンザで怖いのは,インフルエンザ脳症です。命にかかわる重症の病気です。これが疑われる時には,高熱と意識障害,けいれんの頻発が主な症状になります。意識障害の中には,異常行動も含まれます。タミフルが発売された10年前に,2階から飛び降りて死亡するなど,異常行動がニュースになり,タミフルは異常行動を起こしやすい危ない薬だと言われましたが,10年経って,他の薬を使った時も,薬を全く使わなかった時も,異常行動が起こる確率は変わらず,異常行動の原因は薬によるものというよりは,高熱によるせん妄状態が影響していると考えられるようになりました。そのため,10歳代のインフルエンザ患者では,薬の服用にかかわらず,高熱が出ている期間は,異常行動に注意する必要があります。熱がある時は,ドアや窓に鍵をかけるようにしましょう。