サンタ通信No238(05)表 R1.05.18発行

手足口病の流行が始まりました

 すっかり暑くなってきました。半袖が気持ち良い季節ですね。ゴールデンウィークに私は北インドを旅行してきました。白い大理石のタージマハルは美しい建物です。それを見るために,世界中の人々がインドに来ます。ゴールデンウィークに旅行先を探すと,インドは結構ギリギリのタイミングでも空席があります。それは,この時期がとても暑くて,旅行には向かない季節だからです。初めてインドを訪れたのはお正月でした。冬は涼しくて,ダウンジャケットが必要になりますが,雨は降らず湿度も低いので,快適に旅ができます。ゴールデンウィークの頃は,暑季と言ってインドで一番暑い時期です。私が旅した1週間は,気温が43℃まで上がりました。雨は1回も降らず,乾燥しています。外を歩くと,まるでサウナの中を歩いているようです。熱風で肌がチリチリ痛く,体調管理が大変です。そんな中,路線バスはエアコン付きのバスとエアコン無しのバスに分かれていて,料金も違います。エアコン無しのバスにも大勢のお客さんが乗っていて,窓もドアも全て開けっ放しで走ります。しかも溢れた乗客は,屋根の上に平気で乗っていました。バスの中も,屋根の上も,料金は一緒なのだそうです。43℃の暑さから日本に帰って来たら,涼しさに心からホッとしました。

 さて,最近1週間(5月6日〜5月12日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは手足口病で週18人でした。次いで,感染性胃腸炎6人,RSウイルス感染症3人,水痘3人,突発性発疹1人,溶連菌感染症1人,咽頭結膜熱1人,流行性耳下腺炎1人でした。手足口病が急増しています。この時期から7月頃までが好発時期ですので,もう少し増えてくると思います。患者さんは,全員3歳以下の乳幼児でした。流行しているタイプは,のどの奥に口内炎ができ,手には発疹が少なく,足に多いタイプです。熱も38〜39℃くらいの高熱が2〜3日出ることが多いです。手足の発疹がほとんどない場合は,ヘルパンギーナと診断されます。手足口病の治療は特にありません。安静にしながら,のどの痛みで食事や飲水ができないことがありますので,脱水にならないように少しずつ経口補水液を飲ませたり,ゼリーのような喉越しが良いものを与えます。口内炎が舌や口の前の方にあれば,口内炎用の軟膏が塗れるのですが,のどの奥には塗れませんので,通常は解熱剤だけを処方します。解熱剤が痛み止めにもなりますので,服用後,数時間はのどの痛みが少し和らぎます。集団生活ができるようになるには,解熱して,食事がしっかり摂れることが大切です。ただ,2週間くらいは手足口病のウイルスが便中に排出されますので,症状が回復しても,本人や周囲の人がしっかり手洗いを続けることが大切です。

 感染性胃腸炎(嘔吐下痢症)の流行が続いています。嘔吐が頻回で,顔色が良くない人には点滴をします。嘔吐は半日くらいで落ち着くことが多いのですが,吐き気がまだ残っている時は,吐き気止めの座薬や経口薬を使い,経口補水液OS-1を10mlくらいずつ頻回に摂るようにします。下痢は2〜3日で治ることもあれば,1〜2週間続くこともあります。下痢している時は,整腸剤の内服と消化の良い食事を摂りましょう。ウイルスによる胃腸炎ですので,便からの感染力は長いと1か月続くこともあります。周囲への感染を予防するために,必ずしっかり手を洗いましょう。

 RSウイルス感染症も時々みられます。咳が強く,あまり熱が出ない場合は,RSウイルスの可能性があります。診断のための迅速検査は,1歳未満の乳児と未熟児で生まれたお子さんだけが保険適応になります。

 

5月25日(土)は会合のため17:00で診療を終了します。

5月31日(金)〜6月1日(土)は学会のため,休診します。

7月7日(日)は当番医を担当します。救急患者優先になります。

サンタ通信No238(05)裏 R1.05.18発行

手足口病

 手足口病の流行がみられるようになってきました。1年を通して手足口病はみられるのですが,夏カゼの代表的な病気ですので,手足口病のピークは7月頃になります。これから夏にかけては周囲の流行状況に注意が必要ですね。手足口病の原因ウイルスは,1種類のウイルスではなくて,エンテロ系のいろいろなウイルスが起こす病気です。コクサッキーウイルスA6,A16,A10,エンテロウイルス71(EV71)などが主な原因ウイルスです。それぞれのウイルスで症状にも違いがあり,高熱が出るタイプや,全身に発疹が出るタイプもあります。例えば,コクサッキーA16型は典型的な手足口病で,あまり熱も出ず,発疹も掌や足底に小さな水疱が出て,口腔内に赤い水疱が見られます。また,コクサッキーA6型は,発疹が手足だけでなく,全身に及ぶことがあり,発疹の前に高熱が出ることが特徴です。エンテロウイルス71型は,普通は発熱と手足の発疹,口の中の水疱の症状ですが,稀に髄膜炎や脳炎などを起こしますので,このタイプが流行する時には,厳重な注意が必要です。

 今,流行しているのは,高熱が2日間くらいみられ,発疹は手にはほとんどなく,膝やお尻に多い印象です。発疹も水疱になることは少なく,赤い斑点だけで終わることが多いです。いつも診るタイプとは少し違うようです。1種類のウイルスにかかると,同じウイルスには二度とかかりません。しかし,原因ウイルスが何種類もあるため,何回も手足口病にかかります。また,一つのウイルスにかかっても,手足口病になることもあれば,発疹の出ないヘルパンギーナを起こすこともあります。また,発熱だけでカゼと見分けのつかない病状を呈することもあれば,嘔吐下痢の胃腸炎の形をとることもあります。様々な症状がエンテロ系のウイルスによって引き起こされるのですが,残念ながら治療法はなく,対症療法だけになります。ほとんどの手足口病は予後良好で,数日すれば自然に治まります。

 感染経路は,飛沫感染・接触感染・糞口感染(便の中に排泄されたウイルスが口に入って感染する)が知られています。乳幼児はまだ手足口病にかかったことのない人がほとんどなので,多くの子どもが発病してしまいます。このため,保育園や幼稚園などでは集団感染が起こりやすいです。ウイルスは人の腸管で増えて便に排出されます。病初期に口の中に発疹が出たり,発熱が出たりする時期(発症後1週間)は唾液中にウイルスが存在します。そのため,飛沫感染で周囲に感染させたり,唾液のついた手で物を触ったりすれば,ウイルスは通常の環境では容易に失活しませんので,接触感染も起こります。病気が治った後も腸管内にウイルスは長く残り,便中に2〜4週間排出されます。この時期は,糞口感染と言って,便が付いたオムツを触ることでウイルスが手に付き,口に入ることで感染します。感染してから発症するまでの潜伏期は3〜6日です。口に入ったウイルスは,腸管の中で増殖し,一部が血液中に入り,ウイルス血症を起こし,各臓器に運ばれ,様々な症状を引き起こすのです。手足口病から回復した後も,1ヶ月くらいは,便やオムツの取り扱いに注意し,手洗いを確実に行うことが,周囲に手足口病を拡げない重要な対策です。集団生活をする保育園などでは,流行期には子ども達の手洗いをしっかり行うことと,保育者も自分の手洗いを確実に行い,感染を拡大させないようにしなければなりません。

ワクチンで防げる病気

 最近,水痘や流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の患者を時々診ます。5年前から水痘ワクチンの2回接種が始まり,患者はほとんどみられなくなったのですが,流行がなくなると,これまで1回接種しかしていない人は,時間とともに免疫は下がって来て,感染すれば発病を防ぐことができなくなります。もちろん1回も接種していない人は発病します。今,麻疹や風疹が予防接種をしていない大人で感染が広がっているのと同じで,2回接種をした人が大多数を占めるようになる時期までは,水痘の流行は続くと思います。おたふくかぜも同じで,多くの人がワクチンを受けていません。任意接種でお金を払って受けなければならないため,積極的に受ける人が少ないのです。おたふくかぜは不顕性感染も多く,感染しても発病しない人が3人に1人くらいの割でいます。ですから,自分はおたふくかぜにかかったことがないという人でも,抗体検査をすると,抗体を持っている場合が結構あります。抗体ができている人は心配いりませんが,抗体がない人は,おたふくかぜで仕事を1週間休まなければならなくなり,髄膜炎や睾丸炎・卵巣炎・難聴などの合併症を起こさないか心配することになります。予防接種よりも実際にかかった方が,十分な免疫ができると主張する人もいますが,それは軽く済んだ場合のことであって,必ず軽く済むという保証は誰にもできませんから,ワクチンで予防する方法を選んでいるわけです。国もおたふくかぜのワクチンを定期接種にする方向性は決まっているのですが,具体的な動きはまだありません。早く定期接種にしてもらいたいものです。