サンタ通信No220(11)表 H29.11.18発行

インフルエンザに注意を

 最近まで半袖で診療をしていましたが,急に冬のような寒さがやってきて,あっという間に長袖の診療着に変更しました。私の趣味のダイビングでも,この時期がウェットスーツからドライスーツに衣替えの季節になります。水温はまだ25℃くらいあるので,水中は寒くないのですが,陸に上がってくると,体が濡れてしまっているので,寒くて震えてしまいます。ドライスーツなら体が濡れないため,寒くないのです。この季節は,ゆっくり気温の変化が進んでいくのですが,今年の晩秋は急に寒くなってしまった印象があります。この文章を書いている今も,温かいココアをいただきながら書いています。今年は,夏にインフルエンザが終息した後も,少しずつ散発的な患者発生が全国各地で続いていましたが,11月に入って鹿児島市内でも患者発生の報告が目立つようになり,気をつけなければいけないなぁと思っていた矢先に,霧島市の天降川小学校でインフルエンザによる学級閉鎖のニュースが発表されました。例年にない,早い流行にびっくりしました。鹿児島市は現在,インフルエンザが1週間に20人程度ですので,まだ流行というほどではないのですが,12月になると集団感染が起きやすい気温・湿度になります。周囲の患者発生情報に注意しておいてください。また,年末年始を機に大きな流行が始まることが多いので,その頃はさらに要注意です。

 さて,最近1週間(11月6日~11月12日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのはインフルエンザで3人でした。それ以外は,RSウイルス感染症2人,突発性発疹2人,感染性胃腸炎2人,溶連菌感染症1人,手足口病1人,水痘1人でした。全体的に感染症が少なくて,嵐の前の静けさといった感じなのですが,気温の変動によるものでしょうか,咳や鼻水,発熱などのカゼ症状で来院される患者さんが多いようです。その中で,インフルエンザの人を見逃さないようにしなければなりませんので,結構気を遣います。インフルエンザで今多いのは,A型です。小中学生から始まり,下の兄弟に流行が拡がっているようです。検査に適した時間帯は,発熱後12時間くらいです。しかし,お昼に熱に気付いて診療終了直前の19時頃に来院される方がいらっしゃいます。早すぎると,痛い検査を何回もしなければなりませんし,ウイルスを検出できないことが多いのです。12時間だからと,夜間の救急センターに駆け込む必要はありません。翌日の朝に検査すれば十分間に合います。タミフルやリレンザ,イナビルといった治療薬は,発症後なるべく早期に使用すれば,効果は高くなりますが,ウイルスを殺すものではなく,ウイルスの増殖を食い止めるだけですので,あとは自分の体が病気を治してくれるのです。そのためには,体調を良く維持しておくことが重要になります。水分や食事をしっかり摂らせるようにしましょう。もし,水分がうまく摂れないような時は,解熱剤で熱を下げて,水分を摂らせてみてください。熱が下がると気分が良くなり,水分や食事を摂ってくれます。インフルエンザは合併症を起こさない限り,自然に治っていく病気なのですから,心に余裕を持って病気に対処したいものです。欧米では,インフルエンザでタミフルなどの薬をほとんど使いません。インフルエンザに罹った時は,自宅で安静にして,温かいスープや水分をしっかり摂らせてあげるだけです。ただし,合併症として注意しなければならないのが肺炎と脳症です。熱がなかなか下がらずに,咳がひどくなる時は,病院で検査が必要です。痙攣や意識障害が見られる時は,すぐに病院を受診されてください。

 11月26日(日)は当番医です。救急患者優先です。

 年末年始は,12月28日午後から1月3日まで休診になります。また,1月5日(金)は診療します。1月8日(月)成人の日は当番医を担当します。代わりに,1月7日(日)が休診となります。

サンタ通信No220(11)裏 H29.11.18発行

予防接種ついて

 この頃は,インフルエンザのワクチン接種で忙しい小児科外来ですが,子どもの病気で一番恐ろしい細菌性髄膜炎をここ数年間,診ていません。小児科医にとって,とても嬉しいことです。鹿児島市は,全国に先駆けて,2008年にヒブワクチンの公費負担を決定しました。その結果,インフルエンザ菌による髄膜炎が2008年は年間11人いたのが,2009年が10人,2010年が8人,2011年が4人,2012年が1人と減少し,それ以降は患者が出ていません。ヒブワクチンというのは,ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型と言う髄膜炎を起こす細菌に対するワクチンで,このワクチンが出てくる前は,この菌による髄膜炎の患者さんをよく治療したものでした。市立病院に勤めていた頃には,この診断をした時に,家族に助けられない可能性があること,助かっても半数に脳の障害が残ってしまうことなど,主治医として伝えなければならず,苦しい思いをしました。当院で診断して二次病院へ紹介した患者さんには,必ずお見舞いに行ったものでした。2013年に定期接種として認められ,ようやく全国的に接種が無料で受けられるようになりましたが,鹿児島市の先見性には誇らしいものがあります。

 肺炎球菌ワクチンについても,効果が分かってきました。2010年に7価の小児用肺炎球菌ワクチンが導入され,2013年に定期接種となっています。このワクチンが使われるようになってから,肺炎球菌による髄膜炎や敗血症といった重症感染症は,次第に減少してきたものの,7価以外のタイプの菌による感染症が増えてきました。肺炎球菌にはたくさんのタイプ(血清型)があり,最初は7種類のタイプの菌を対象にワクチンを作っていたのですが,それ以外のタイプの菌が増えてしまったということです。そのため,2013年末から13価のワクチンに変更し,現在まで肺炎球菌による重症感染症は減少傾向が続いています。ただ,13価以外のタイプがまた増えてこないか,今後とも注意が必要と思われます。

 4種混合ワクチンについては,百日咳,ジフテリア,破傷風,ポリオの4つの疾患を予防するためのもので,百日咳は激しい咳き込みが長期間続き,乳児がかかると,呼吸が止まったり,脳症を起こすことがあるため,子どもにとって怖い病気です。ジフテリアはワクチンにより今ではほとんどみられなくなった病気ですが,1945年は8万人がかかり,その1割が死亡しています。2000年以降,わが国では患者発生はありませんが,ワクチンは続けられています。破傷風は,菌から神経毒素が出され,痙攣などが起こります。最近のデータでも年間40人の患者発生があり,致死率30%との報告があります。ただし,患者の95%以上が30歳以上の成人です。ポリオはウイルスによる手足の麻痺を起こす病気です。1980年以降,患者発生はありませんが,海外から国内に入ってくる可能性があり,ワクチンは続けられています。また,4種混合ワクチンは赤ちゃんの時に3回の接種と追加接種を1年後に受け,小学6年生の頃にジフテリアと破傷風だけの2種混合ワクチンを受けるようになっています。最近,大人の百日咳が多くなっているため,2種混合だけでなく,百日咳を含めた3種混合にした方が良いと考えられています。

 このように,ワクチンによる恩恵は計り知れないものがあります。ネットを開くと,ワクチンは打つべきでないとか,死亡例がいた,などと出てきますが,子どもを守る小児科医で,ワクチンに反対する人はいません。例えば,全世界ですでに使われていたヒブワクチンを,日本は認可はしたけど定期接種にはしてくれませんでした。そこで,小児科医たちは必要なワクチンだからと,自治体に働きかけ,公費負担にしてもらい,その後,ようやく国が定期接種にしてくれました。たまにワクチン記載がない母子手帳を見かけます。ワクチンに対して疑問をお持ちなのかもしれませんが,本当に必要ないものなら,私達は勧めません。ワクチンの危険性も全くないわけではありませんが,全世界でほとんどの方が接種を受けています。安全性は高く,効果も高いので,小児科医が勧めるワクチンは,是非ともお受けください。もし,ワクチンについて質問があれば,いつでもお受けいたします。