サンタ通信No212(03)表 H29.03.18発行

インフルエンザが終息傾向

 寒さが和らいで,春がそこまで来ていると感じられる季節になりました。ハクモクレンがきれいな花を咲かせています。庭の草花もきれいです。自宅の2階バルコニーでもラッパスイセンが一斉に花をつけました。春分の日にはラッパスイセン,秋分の日には彼岸花が必ず咲きます。全く手入れをしていない庭ですが,自然の力は本当に素晴らしいです。

 ところで,今月5日に当番医を担当しました。インフルエンザのピークを過ぎていたこともあり,思っていたよりもスムーズに終えることができました。とは言っても,朝8時半から始め,夕方3時まで休憩なし。10分間の食事時間が取れて,どうにか夜7時半に終了しました。駐車場から車が溢れましたが,心配していたような混雑がなくて,ほっとしました。130人の患者数でした。特に重症の患者さんがいなくて幸いでした。そんな中,病院内のトイレのドアが,開けられなくなるアクシデントが発生。1分間でドアをこじあけることができたので,大事にならずに済みました。早速,業者に修理をしてもらいました。この建物も築18年になりますので,いろいろと手がかかるようになってきました。患者さんに安心して利用してもらえる快適空間を,これからも提供していきたいと考えています。

 さて,最近1週間(3月6日~3月12日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは,インフルエンザで20人でした。次いで,感染性胃腸炎4人,RSウイルス感染症2人,溶連菌感染症2人,伝染性紅斑2人,突発性発疹2人,おたふくかぜ2人,水痘1人でした。今年のインフルエンザの流行は,例年よりも早く始まり,ピークを迎えたのも2月上旬と早かったため,終わりも少し早くなりそうです。3月末頃に終息するのではと予想されます。20人中A型が15人,B型が5人と,B型が増えてきました。流行の終盤はB型が多くなります。皆さん,この時期に発熱すれば,早めに受診されますので,インフルエンザの治療薬開始が早くて,軽く済む方が多いです。「タミフル」については,異常行動の副作用が大きく報道されてから,服用に不安を持たれている方がまだ多いですね。マスコミは注目を引く話題については,大きくあおるような報道をしますので,「タミフル」は怖い薬だと思い込んでしまっているのでしょう。実際は,インフルエンザの高熱で異常行動が引き起こされ,「タミフル」の興奮作用が異常行動の確率を高めます。ですから,薬を使う,使わないは関係なく,高熱が出ている子どもを1人にしないようにすることが大事なのです。今は,新聞・テレビなどのマスコミだけでなく,ネットでいろいろな情報が入ってきます。医学情報を詳しく勉強されている患者さんも多いです。私が医学生の時に学んだ知識は,今の診療の中では役に立たなくなっているのもあります。医師も最新の知識が必要になります。そのために学会などでの勉強は欠かせません。専門医のためのオンラインセミナーも受講しています。ネットで医学情報を知ることもあります。でも,得た情報がどれくらいの信頼度なのかを常に考えています。小児科学会などの公的機関が提供している情報は信じられます。個人が出している情報は信頼度が低いです。難病の患者さんの遺伝子解析をスーパーコンピュータで行い,専門家の知識で解決できなかった治療法を導き出してくれるような世の中になりつつありますが,最終的には人間が判断して治療法を決めるのですから,情報に振り回されないことも重要です。その人にとって一番良い治療法というのは患者さんの価値観にもよりますし,その人の生活環境によっても違ってくると思います。患者さんの気持ちを第一に考えたいです。

 

 4月14日(金)~15日(土)は学会出席のため休診となります。代わりに4月18日(火)を診療日とさせていただきます。

 4月22日(土)は学会出席のため,17時までの診療とさせていただきます。

 ゴールデンウィークは,5月3日(水)が当番医で,5月4日(木)~8日(月)が休診となります。代わりに5月2日(火)と5月9日(火)が診療日となります。

サンタ通信No212(03)裏 H29.03.18発行

溶連菌感染症について

 溶連菌は溶血性連鎖球菌という細菌です。血液を混ぜた寒天培地でこの菌を育てると,血

液を溶かす性質があるため,溶血性という名前がつけられました。連鎖球菌というのは,顕微鏡で見ると丸い形をしていて鎖のように連なって成長していくため,連鎖球菌という名前になっています。私は鹿児島大学で研究している時に,この溶連菌を培養してM蛋白を抽出する実験をしていました。日々たくさんの溶連菌を育て,その中から数か月かけて数gのM蛋白が抽出できたのを覚えています。この研究は,鹿大小児科の溶連菌研究班が行い,1985年にMBC賞を受賞し,その一員であった私も表彰を受けました。私にとっては思い入れの強い溶連菌ですが,結構怖い菌でもあります。感染力が強く,色々な病気を引き起こすからです。感染しやすい年齢は幼児から学童で,学校や家庭での集団感染が多く,冬から春に多発します。鼻汁や唾液中の溶連菌飛散により,人から人へ感染したり,皮膚の傷から感染することもあります。潜伏期は1~4日で,急性期は非常に強い感染力を持ちますが,抗菌薬服用で1~2日後には症状も消失し,感染力も著しく低下します。

 菌が体の中に入ると,咽頭炎・扁桃炎・中耳炎・副鼻腔炎などの病気を起こします。のどの粘膜に赤いブツブツがみられ,本人はのどの痛みを訴えます。舌の粘膜も赤くブツブツが目立ち,苺舌という所見がみられます。猩紅熱(ショウコウネツ)といわれる発疹が全身に拡がることもあります。猩紅熱は,明治時代に法定伝染病として指定された病気でしたが,抗生剤で簡単に治療できることが分かってからは,手続きが大変な法定伝染病として届けを出さず,普通の溶連菌感染症として治療をすることが主流になりました。猩紅熱が法定伝染病から外されたのは,1998年の法改正の時で,それまでは法定伝染病として隔離が必要だったわけです。今でも家族全員が発熱したり,クラスで集団発生したりしますので,当時は危ない病気だと思われたのでしょう。全身に菌が拡がると敗血症を起こします。皮膚に感染すると膿痂疹(とびひ)になります。診断方法は迅速検査キットがあり,10分で陽性・陰性の判定ができます。治療はしっかり除菌することが必要で,ペニシリン系やセフェム系の抗生剤を7日間から10日間服用します。治療が終わって1週間以内に,のどの痛みや発熱がある場合は,再発が疑われます。薬の服用を忘れたり,大きく服用時間がずれたりすれば,溶連菌は生き残ってしまいますので,抗生剤はきっちりと服用しましょう。

 合併症として,急性糸球体腎炎とリウマチ熱が知られています。急性糸球体腎炎は溶連菌に感染した後,2週間くらいで起こってきます。昔はよく診る病気でしたが,最近は診断が確実にできて,早めに治療ができるため,ほとんどみられなくなってきました。昔は,溶連菌の治療後に検尿を行っていましたが,最近は眼に見えるような血尿や体のむくみなどに注意しておけば,必ずしも全員に検尿を行う必要はなくなりました。リウマチ熱は心臓弁膜症を引き起こす病気で,大変怖い病気なのですが,最近は診ることのない稀な病気になりました。

熱性けいれんの治療について

 熱性けいれんを起こしやすい人に対しては,予防のために「ダイアップ」というけいれんを抑える座薬を発熱と同時に使用し,8時間後にまだ高熱があれば2回目を使用していました。2015年版の熱性けいれんガイドラインでは,15分以上の長い熱性けいれんがあった人に対しては,「ダイアップ」での予防を勧めています。また,⑴~⑹の項目を2つ以上満たしたけいれんが2回以上あった人にも予防が勧められています。

 

 ⑴部分的なけいれんの発作,または24時間以内にくりかえす発作

 ⑵もともと発達遅滞や神経の異常がある場合

 ⑶家族に熱性けいれんやてんかんの人がいる

 ⑷1歳未満

 ⑸発熱後1時間未満での発作

 ⑹38℃未満での発作

 

この条件に合う熱性けいれんが複数回起これば,「ダイアップ」での予防が勧められます。熱性けいれんをあまり怖がらずに,持続時間の長いけいれんが起きやすい人への予防投与が勧められるということですね。「ダイアップ」という薬は,脳神経の鎮静作用があり,副作用として眠気・ふらつきがみられます。投与後にお子さんを1人にすると,歩行中に倒れたり,階段から落ちたりすることがありますので,ふらつきが出ているかどうか,確認する必要があります。いつまで「ダイアップ」での予防をしないといけないのかは,結論は出ていません。多くの人が考える基準は,最終発作から2年経過した頃,あるいは5,6歳をめどに予防投与を終了するのがよいとされています。心配な方は,ご相談ください。