サンタ通信No218(09)表 H29.09.18発行

ようやく秋の気配

 曇りや雨の日は,気温が上がらず,過ごしやすくなってきました。それまでは,日中は外に出たくないくらいの暑さでしたから,やっと一息つけたという感じですね。気候が良くなると,体を動かしたくなります。私は1週間に1回くらいのペースで,スポーツジムに行き,ランニングやスイミングをしています。20年以上続く習慣ですが,仕事を続けていくためには,必要な習慣だと考えています。良い診療をするには,心も体も元気でなくてはいけません。これからも,年齢に合った運動量で続けていきたいものです。

 さて,最近1週間(9月4日~9月10日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは手足口病で6人でした。それ以外は,ヘルパンギーナ4人,おたふくかぜ4人,感染性胃腸炎3人,RSウイルス感染症2人,溶連菌感染症2人でした。夏休みが終わって,新学期が始まった時期ですので,感染症はあまり多くはありませんが,小児科医のメールでは,インフルエンザ発生の情報が流れており,鹿児島市でも散発的に発生しているようです。昔はこの季節にインフルエンザの発生はなかったのですが,温暖化の影響か,夏場でも発生が途切れないようです。温帯地域では冬に流行し,熱帯・亜熱帯地域では雨季に流行します。もちろん,南半球では今が冬ですので,インフルエンザは流行しています。世界規模で人々が動く現代では,感染症も瞬時に流行拡大していきますので,南半球で感染した人が,日本に帰ってきて,発症しているのかもしれません。いずれにしても,発熱した時には,自分の周囲でインフルエンザの発生情報があれば,検査した方が良いでしょう。

 夏カゼの手足口病とヘルパンギーナは減少傾向です。好発時期が過ぎ,今後はさらに少なくなりますので,少し安心しても良いでしょう。今年の手足口病は,発疹が少なくて,その割には神経症状を伴う症例がありましたので,いつもの手足口病よりも診断や治療に苦労した印象があります。非典型的な症状で,手足口病を診断するのは大変なのですが,似たような症状の人が数人いれば,そのようなタイプの手足口病だったと気がつきますので,その後は診断しやすくなります。おたふくかぜについては,長い間,流行が持続しており,合併症の難聴について,裏のページに詳しく記載しておきました。参考にされてください。RSウイルス感染症は,今年の夏に患者数が多く,入院になったお子さんも多かったです。未熟児で生まれたお子さんや1歳未満のお子さんは,咳が出ている人との接触は避けるようにしましょう。RSウイルスには特効薬がありません。重症になるか,軽くて済むかは運次第なのです。さらに,RSウイルスに感染すると,肺の組織が障害されてしまい,RSウイルス感染症が治った後1年くらいは,ちょっとした風邪でもゼーゼーして,まるで喘息の子どものように,強い咳と呼吸困難の症状が出やすくなります。反復性喘鳴と言われる症状です。入院が必要になった重症のRSウイルス感染症の子どもほど,この症状が出やすく,それを防ぐために,RSウイルス感染後に抗アレルギー剤内服をしばらく続ける治療をすることがあります。溶連菌感染症は,のどの奥に溶連菌が付着して炎症を起こし,主に発熱と咽頭痛の症状が起こります。感染力が強く,家族内での集団感染やクラスでの集団感染を引き起こします。治療に使う抗生剤にはよく反応し,ほとんどの患者さんは,治療開始後1日で解熱します。しかし,その状態で治っているわけではありません。治療を途中でやめると,短期間で発熱や咽頭痛が現れます。1週間から10日間は抗生剤を飲み続ける必要があります。完全に除菌できないと,感染を拡げてしまいますので,注意が必要です。

 

 9月18日(月)~20日(水)が休診となります。代わりに9月22日(金)が診療日となります。

 11月26日(日)は当番医です。救急患者優先です。

サンタ通信No218(09)裏 H29.09.18発行

おたふくかぜで起こる難聴

 9月7日に南日本新聞におたふくかぜで336人が難聴になったという記事が出ていました。このデータは日本耳鼻咽喉科学会による初めての全国調査で明らかにされた事実です。2015年と2016年の2年間について,おたふくかぜで難聴になった患者がどれくらいいるかを,全国の医療機関を対象にして,2536施設から回答してもらったものです。難聴と診断された336人のうち,詳細が判明した314人の8割に当たる261人が日常生活に支障をきたす高度難聴あるいは重度難聴だったとのことです。そのうち,両耳とも難聴になった人は14人で,うち11人は補聴器を使ったり,人工内耳を埋め込んだりしています。詳細が判明している難聴の314人のうち,10歳未満が49%と半数近くを占め,10代が22%,20代が7%,30代が11%と,子どもが難聴になるケースが多かったのですが,子どもから感染する機会が多い子育て世代の30代も多くなっています。

 おたふくかぜは,ムンプスウイルスが原因で,発熱と耳たぶの下にある耳下腺の腫れが起こります。残念ながら,おたふくかぜに特効薬はなく,発症すれば難聴などの合併症を起こすかどうか,見守るしかない状況です。難聴になる機序は,ウイルスが,耳の奥にある内耳にダメージを与えることで起こります。難聴になってしまえば,治療での回復は難しいです。現時点では,予防接種を受けて,おたふくかぜにかからないようにするしかないのが現状です。耳鼻咽喉科学会では「先進国で定期接種でないのは日本だけだ。急に何も聞こえなくなって一生後遺症に苦しむ現実がある」として,予防接種を受けるように勧めています。おたふくかぜの予防接種は,自費で受ける任意接種のため,接種率は3~4割にとどまっているため,流行が度々起こってしまいます。当院でも週に数人のペースで診断されています。難聴以外にも,無菌性髄膜炎や睾丸炎,卵巣炎,膵炎などの合併症があり,おたふくかぜは,治療法のない怖い病気と私は考えています。私が子供の頃には,大人になってからかかると大変だから,子供のうちにかかっておいた方がいいと言われ,患者さんと故意に接触させられたものでした。当時は予防接種のない時代でしたから,子供のうちにかかりなさいという理屈は正しかったのですが,現代ではワクチンで予防するのが一番だと考えられます。ワクチン接種は2回接種が必要とされています。1回目は,1歳過ぎたらすぐに接種し,2回目は小学校入学前の1年間が推奨されています。早く定期接種になって,無料で受けさせたいワクチンです。

鼻水の不思議

 鼻水はどうしてできるのでしょうか。呼吸をすると,鼻の中に空気が入ってきます。鼻の働きは,まず入ってきた空気を加湿・加温して,調整する役目があります。さらに,空気の中には,人間に必要な酸素だけでなく,ほこりや細菌・ウイルス・カビなどの病原体も混ざっているため,それらを浄化するのに鼻水が役立ちます。鼻の粘膜から分泌される鼻水の量は,1日に1リットル以上と言われます。異物を洗い流し,粘膜を守り,肺へ入る空気に適度な温度と湿度を与えます。カゼのウイルスや花粉などが鼻腔に入ると,それを感知して,鼻水を出して,洗い流してくれます。これらは鼻の正常な機能なのです。小児科の外来で「鼻水が出ますか?」と聞くと,「泣いた時に出ます」と答えられる方がいます。これはカゼの鼻水ではなく,泣いた時の涙が鼻涙管という管を通して鼻に流れ込んでいるだけで,病的なものではありません。

 鼻水が膿のように黄色いどろっとした状態になることがあります。これは,病原体が鼻に入り込み,それを抑えようと体の免疫反応が働いて,粘膜に炎症が起こるためです。鼻腔だけでなく,副鼻腔にも炎症が及び,大量の汚い鼻水が出るようになります。この状態が副鼻腔炎です。のどの奥を観察すると,上から膿が流れるのが見えることがあります。カゼで急に起こると急性副鼻腔炎,カゼが治った後も数か月続くようなら慢性副鼻腔炎となります。膿性の鼻水が出る場合は,抗生剤の適応になってきます。鼻と耳は耳管でつながっていますので,鼻に炎症が起こると,耳にも炎症が拡がります。カゼの時に耳の痛みを訴えるお子さんが多いですが,自分で表現できない低年齢の乳幼児では,できるだけ耳を診察するようにしています。一度中耳炎を起こしてしまうと,次回はちょっとした風邪でもすぐに中耳炎を起こすことがあります。これは子どもの耳管が太く,短く,傾きも水平に近いため,菌が耳に入りやすいためです。初期の中耳炎では,抗生剤を使わずに経過を見て,鼓膜の所見で腫れが強い時や,耳の痛みが強い場合は,抗生剤を使うようにしていますが,耳鼻科受診をしてもらう方が安心はできると思います。