サンタ通信No214(05)表 H29.05.18発行

インフルエンザの流行がまだ残っています

 気候がよくなり,半袖で夜も寒くなくなりました。昼間は半袖でも汗が出るほどです。いよいよ夏が近くなってきました。趣味のダイビングは,これから秋までベストシーズンを迎えますが,休日に学校や保育園の内科健診が入っていたり,小児科学会や小児神経学会などの会合があったりで,なかなか海に行く機会が少ないです。先日,学校の先生たちが時間外労働が多く,日常生活に疲れているとの新聞記事を読みました。ちょうど学校健診があったので,校長先生とその話をしました。学校の仕事には事務作業が多く,それに時間を多く取られ,勤務時間が長くなっているということを聞きました。医療機関では,医療事務以外の仕事をするクラークという職種があり,診察の介助やデータの整理など,医師の仕事を減らす目的で働いていますので,学校でも,教師の仕事を補助するような職員がいると,教師の仕事が軽減されていいのでしょうが,という話になりました。医師の時間外の仕事を聞かれましたので,私が県立大島病院に勤務した時に,ちょうど時間外労働を正確に記録する機会があり,その時には月に120時間を超えていましたと話したら,驚いていました。そんな仕事中に,もし突然死していたら,きっと労災に認定されたでしょうね。

 さて,最近1週間(5月8日~5月14日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは,溶連菌感染症3人,インフルエンザ3人,感染性胃腸炎3人,咽頭結膜熱3人と4疾患が同数でした。それ以外は突発性発疹1人,おたふくかぜ1人でした。感染症全体の患者数は少なくて,落ち着いている印象があります。これから夏カゼが多くなる7月までは,感染症は小休止の状態が続くのではないでしょうか。その中で,インフルエンザがまだ散発的に発生しています。この週のインフルエンザ患者は3人で,全員がA型でした。3人とも住所は大きく離れていますので,まだじわじわと流行が続いている印象です。季節的に大きな流行になる心配はありませんが,例年ならば,5月いっぱいで終息しますので,もうしばらく注視する必要がありそうです。インフルエンザと診断された3人は,全員がインフルエンザの患者さんとの接触歴がありましたので,自分の周囲に患者さんがいる場合は,インフルエンザの可能性が高くなります。周りの流行に気をつけておきましょう。

 溶連菌感染症は少し落ち着いてきていますが,まだ,新学期で拡がった流行が続いている状態です。友達や兄弟から感染していますので,周囲に溶連菌の患者さんがいたら,発熱した時に溶連菌の検査が必要です。また,人にうつさないためには,抗生剤を最後まできっちり服用することと,飲み終えた後に熱が出た場合は,溶連菌の再発を考えて,他の人と接触を控えることです。

 咽頭結膜熱が少し目立つようになりました。アデノウイルスによる感染症で,高熱が4~5日続き,扁桃腺に炎症がみられます。目やにが出ることも多いです。俗にプール熱という名前で呼ばれています。昔はプールを介して流行していたからですが,現在はプールの塩素消毒ができていますので,プールで感染することはなくなりました。ただ,タオルを介して感染することがありますので,タオルの共有はしてはいけません。一緒に洗濯するのは差し支えないですが,必ず日光に当てて乾燥させるようにしましょう。感染性が強いウイルスのため,インフルエンザと同じように,解熱して2日間経過するまでは集団生活はできません。治療は特効薬がないため,安静と水分や栄養の補給に気をつけながら,解熱するのを待つしかありません。高熱が出る割には全身状態の悪化は少ないです。そのため,アデノウイルスで入院になるお子さんはほとんどいません。

 

 6月15日(木)は学会のため,休診となります。代わりに6月20日(火)が診療日となります。

サンタ通信No214(05)裏 H29.05.18発行

嘔吐下痢症について

 冬に多い印象の嘔吐下痢が,初夏になるのにまだ目立ちます。吐き気止めを処方し,経口補水液を少しずつ飲んでいけば,ほとんどの人は点滴をせずに済むのですが,どうも今流行しているタイプは,嘔吐が強く,点滴が必要になることが多いですね。嘔吐の時間が長い人や顔色が青白くてぐったりしている人には,点滴が必要になります。小さなお子さんは,母乳やミルクを飲ませますが,乳製品は消化がゆっくりなので,嘔吐しやすいです。どうしても吐いてしまう場合は,経口補水液で水分を補給しましょう。嘔吐が治ってくれば,母乳・ミルクに戻してみましょう。ちなみに,日本麻酔科学会の手術前に絶飲食する時のガイドラインでは,水が2時間,母乳が4時間,ミルクが6時間となっていますので,嘔吐している時にミルクや牛乳を与えると,胃の中に長く留まって,吐く確率が高くなるわけです。OS-1のような経口補水液なら,胃の中が2時間で空になってしまいますので,吐かなくてすみます。

 また,便秘があると,胃腸の調子が悪くなり,嘔吐しやすくなるので,浣腸をして,排便させると,嘔吐が軽くなります。さらに,浣腸でもっと大事な病気に気付くことがあります。腸重積という,救急処置を必要とする病気です。腸が詰まってしまうために,便秘と同じように,嘔吐の症状が起こります。詰まった腸は組織が死んでしまい,血管が破けて出血してきますので,浣腸すると出血に気がつくのです。腸重積は24時間以内に詰まった所を高圧の空気で整復します。8割はこの方法で治すことができますが,残りの2割は開腹手術が必要になります。48時間経ってしまうと,ほとんどが手術になりますし,死亡することもある怖い病気なのです。この腸重積が嘔吐下痢と違う症状としては,繰り返し不機嫌になります。例えば、10分おきに泣き叫けびます。母親がこれはいつもと違い,何かおかしいと感じた時は,是非病院を受診してください。案外,直感が正しいものです。嘔吐下痢の時期に,腸重積を嘔吐下痢と誤診して,症状がひどくなってから,ようやく腸重積だったと気付くことがあります。市立病院に勤務していた時は,手術になってしまった症例をたくさんみてきました。そんな私も,浣腸して出血がなかったので,患者さんを一旦帰宅させ,その後腹痛がひどくなってきたため,再受診してもらい,腸重積を確認し,大事に至らずにすんだこともあります。経過をみていて,症状が進んで行く時には,病院を再受診するようにしましょう。夜間でも夜間急病センターがありますので,気になる時は,どうぞ受診されてください。

運動器健診について

 去年から運動器健診が小学校の内科健診の時に,一緒に検査されるようになりました。運動器健診というのは,骨と筋肉の病気がないか調べるものです。これまでの健診でも,背骨が曲がっているかどうかは,目視で確認していました。疑わしい時には,側弯疑いとして,整形外科の受診を勧めてきました。今回の運動器健診では,それ以外の整形外科の病気を拾い上げるための健診です。まず,家庭でできる簡単なチェックをしてもらいます。深くおじぎをさせて,肩の高さに左右差がないか,手足を動かして痛みがでないか,片足立ちができるか,しゃがみ込みができるか,運動時の痛みがないか,などの質問に答えてもらいます。この問診票をもとに,検査が必要な生徒は,内科検診の時に異常のある部位を診察します。ただ,小児科の校医の診察ですので,精密検査が必要と思われる人には,整形外科を受診するように指示があります。骨や筋肉の病気が見つかることもあれば,ただの運動不足でチェック項目ができなかった場合もあります。健診の時に判断がつかない時は,とりあえず整形外科の受診を勧めます。野球などのスポーツをしている生徒で注意が必要なのは,野球肘や野球肩といったスポーツによる関節障害です。腰椎分離症や股関節の病気も健診の対象になります。学校から整形外科の受診を勧められた人は,必ず近くの整形外科を受診され,心配のいらないものか,病的なものかを診てもらいましょう。整形外科はどこの病院でも構いません。整形外科医には,それぞれの専門分野がありますが,健診で問題になるような病気については,どこの整形外科でもできます。これまでのところ,各クラスに2~3人くらいは,運動器健診をします。ほとんどの人は心配ない症状ですので,異常なしと判断していますが,たまに気になる症状の人がいますので,そこで整形外科を受診するように勧めることは意義のあることだと思います。小学校の校医としては,小児科医か内科医が担当する学校医と学校歯科医,学校耳鼻科医,学校眼科医,学校薬剤師だけしか指定されていません。整形外科医も子ども達の体を守るためには,必要な科目なのですが,対象となる生徒数が少ないですので,整形外科医が学校健診に参加してもらうよりは,問診票に異常があった生徒に,個別に整形外科を受診させるのが現実的ですね。