サンタ通信No208(11)表 H28.11.18発行

嘔吐下痢症が流行中

 今年の秋は,いつまでも暖かい日が続くかと思えば,急に寒い日になって,体調を維持することが難しい印象です。そのせいか,インフルエンザの流行がすでにみられています。10月頃よりインフルエンザの患者発生の情報が出ていました。当院でも,11月3日に当番医を担当した時は,インフルエンザA型の患者さんが2人いました。どちらも市内の方で,その方の学校ではインフルエンザの人がいたとの情報がありました。まだ周囲にいない場合は,インフルエンザの可能性は低く,検査をしても陰性です。12月には次第にインフルエンザが増えてきますので,周囲に患者発生の情報があれば,手洗い・うがいなどの予防を心がけましょう。もちろん,予防接種も済ませておきましょう。少なくとも今年中に2回接種が終わるようにしたいものです。

 最近1週間(11月7日~11月13日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは,手足口病14人でした。次いで,感染性胃腸炎9人,おたふくかぜ8人,RSウイルス感染症2人,溶連菌感染症1人,伝染性紅斑1人,突発性発疹1人でした。夏カゼの代表である手足口病の流行が続いています。先月も10人台でしたので,もうしばらくは同じような規模の流行が続きそうです。これまでに重症化した患者さんはいらっしゃいませんので,今流行している手足口病のタイプは,それほど心配しなくてよいのですが,周りに伝染させない配慮は必要です。手足口病は出席停止の規定はありませんが,発熱している時期や口内炎のために食事が摂れない時期は,集団生活は避けます。手足の発疹のみで,発熱もなく,食事も普通に摂れていれば,登校・登園は問題ありません。ただし,原因のウイルスは急性期には飛沫感染しますし,回復期は便中に2週間くらいはウイルスが排泄されますので,便に触れたり,おむつを処理する時などは,注意が必要です。家族や保育者が手洗いをしっかりすることが周囲への感染予防になります。手足口病という診断を受けた場合は,症状が良くなっても2週間くらいは手洗いを厳密に行う習慣をつけましょう。

 感染性胃腸炎,いわゆる嘔吐下痢症ですが,ウイルス性の胃腸炎が流行しています。嘔吐から始まり,水様性の下痢が続きます。ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスによるものがほとんどで,鶏刺しで感染するカンピロバクターなどの細菌性胃腸炎はほとんどありません。お子さんには鶏刺しを食べさせないように気をつけるようになってきたのでしょうか。しかし,年末年始で鹿児島に帰省する家族がいると,もてなす側としては,郷土料理を準備することが多く,鶏刺しによる胃腸炎が年末年始とお盆によく診られます。鶏刺しは子どもや高齢者には食べさせないようにしましょう。鶏刺しの胃腸炎は抗生剤が効きますが,ウイルスによる胃腸炎には特効薬はありません。座薬や内服薬により吐気を抑え,整腸剤を内服させる対処療法になります。嘔吐が強くて,吐気止めでも水分摂取ができない時には,点滴が必要になります。点滴と同じ成分の経口補水液が売り出されてから,点滴する回数がずいぶん減りました。経口補水液については,裏に詳しく記載しましたので,参考にしてください。

 おたふくかぜは今月も週8人程度と終息が見えません。発症している人は,ほとんどが予防接種を受けていない人です。受けていても1回だけという人が多く,以前は1回接種すると,周囲でおたふくかぜの流行が何回もありましたので,免疫がその度に刺激されて,高い抗体を維持でき,1回接種でもかからずに済んでいましたが,ワクチンを受ける人が多くなってくると,流行が少なくなり,ワクチンで上げた抗体を維持できなくなって,数年で抗体は低下し,おたふくかぜにかかってしまいます。是非2回接種を心がけましょう。

 

 年末年始は12月26日(月)午後から1月3日(火)まで休診となります。

 1月2日(月)は当番医を担当します。

 1月8日(日)は学会のため,休診となります。

サンタ通信No208(11)裏 H28.11.18発行

経口補水液について

 経口補水液(OS-1)は,元々は,医療体制の整っていない発展途上国でコレラ対策として生まれました。東南アジアなどではコレラが猛威をふるっていました。脱水になり死亡する人が多く,医療体制の整った国では,脱水が強ければ点滴をするのですが,発展途上国では病院にかかることもできず,弱った患者に水分を少しずつしか与えることしかできませんでした。コレラなどの重症の胃腸炎では,下痢便の中にナトリウムやカリウムなどのイオンが大量に排泄されるため,血中のナトリウム・カリウムイオンが低くなり,けいれんを起こし,死亡することが多かったのです。そうした人々を助けるために,点滴と同じ成分の水を作り,経口補水療法という治療が生まれました。水だけでなく,ナトリウム・カリウムを高い濃度で調合し,糖分を加えたものがOS-1です。OS-1(500ml)1本のナトリウム量は梅干し1個分と同じで,カリウム量はバナナ1本分と同じくらいです。日本でも,昔から胃腸炎の時には,重湯に梅干を入れて食べさせたりしますが,同じ理屈で治療されていたわけです。経口補水液が日本で脚光を浴びるようになったのは,高齢者の熱中症で効果が高かったためですが,乳幼児の嘔吐下痢でも大変役に立ちました。

 飲ませ方は,スプーン1杯(5CCくらい)ずつ数分おきに飲ませて,少しずつ量を増やしていきます。1日量としては,学童以上は500~1000ml,幼児は300~600ml,乳児は体重1kg当たり30~50mlくらいが目安になります。体重7kgの乳児なら200~300mlになります。とりあえず,500mlを1本ストックしておくといざという時に役立ちます。離乳食が始まっていない乳児では,母乳でかまいませんので,少量ずつ飲ませましょう。経口補水液を使っても水分摂取ができない時は,早く病院を受診し,点滴を受けてください。子どもの脱水は急速に進み,1日で重症化することがよくあります。ぐったりしていたり,意識がもうろうとしているなどの症状があれば,危険なサインです。また,嘔吐下痢症が流行している時に,見逃しやすい病気が腸重積です。腸が閉塞してしまう病気で,便の方へ流れなくなるため,嘔吐で発症します。強い腹痛を伴い,腹痛を表現できない乳幼児では,10分くらいの周期で,突然泣き出したり,不機嫌になったりします。吐き始めの頃に受診して,嘔吐下痢の初期症状だと診断し,その後嘔吐が続き,血便がみられるようになって,初めて腸重積の診断にたどり着くこともあります。腸重積では発症後24時間以内なら,手術せずに内科的な処置で治すことができますが,時間が経ってしまうと,手術が必要になりますし,ショックを起こして死亡するお子さんもいますので,血便が出る時には,躊躇せずに病院を受診しましょう。

インフルエンザの基本

 毎年インフルエンザは大きな流行になるのですが,春から秋まで流行がなくなりますので,インフルエンザのシーズンに入ったばかりのこの時期には,患者さんから検査のタイミングや登校についてのご相談をよく受けます。そこで,インフルエンザについて,基本を予習しておきましょう。

 インフルエンザにはA型とB型がありますが,症状には大きな違いはありません。38℃以上の発熱,関節痛,全身倦怠感などが急激に起こるのが特徴です。併せてのどの痛みや鼻水,咳も出ます。子どもは,けいれんや意識障害などの症状がみられる場合は急性脳炎が疑われます。また,高齢者では肺炎を合併することも多く,注意が必要です。例年の流行期は12月~3月です。診断は迅速診断キットを使います,これはウイルスがいるかどうかを調べる検査ですので,発症してすぐは,ウイルスの量が少なくて,陰性になります。1個のウイルスが感染し,8時間後には100個くらいに増殖し,24時間後には100万個くらいになります。そのため,24時間経過すると,ほとんど陽性に出ます。しかし,治療は発症後48時間以内でないと,効果がなくなりますし,早ければ早いほど軽くて済みますので,診断はなるべく早くしてあげたいのですが,最適のタイミングとしては,発症後12時間から24時間での検査が望ましいです。大人で40℃くらいの高熱が出ている人は,発症後8時間くらいでも陽性になる場合も多いです。お子さんが高熱を出すと,すぐに医療機関を受診させたくなりますよね。でも,家で水分を摂らせながら,クーリングをして半日くらいは看病してあげてください。それからの受診が患者さんにとっても負担が少なくなるはずです。治療は抗ウイルス薬「タミフル」を5日間内服する方法と,「イナビル」を1回だけ吸入する方法,「リレンザ」朝晩2回吸入を5日間続ける方法があります。「タミフル」は異常行動が出やすいということで,10歳代の患者には避けるようになっています。しかし,何も服用していない患者でも異常行動はみられますので,高熱がでている期間は,お子さん1人にしないことが大事です。出席停止期間は,「発症後5日を経過し,かつ解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」とされています。