サンタ通信No207(10)表 H28.10.18発行

手足口病とおたふくかぜが流行中

 10月に入り,空の青さが目立つようになりました。太陽により暖められた大気は,夏に一番膨張して,空が高く見えるのですが,夏は湿気が高くて,空気中の透明度が落ちるため,それほど高く感じません。秋は大陸からの乾燥した空気で湿度が下がり,空気が澄み渡ってきます。空の色を眺めてみましょう。気温も,朝晩が涼しくなって,ようやく過ごしやすくなりました。日中は半袖シャツで十分ですが,朝方は少しひんやり感じて目が覚めます。これからの季節は気候の変わり目で,体調を崩しやすいです。衣服で調整しながら,カゼをひかないように気をつけましょう。

 最近1週間(10月3日~10月9日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは,手足口病12人でした。次いで,溶連菌感染症5人,おたふくかぜ4人,感染性胃腸炎1人,水痘1人でした。手足口病の流行が続いています。手足口病は夏から秋にかけて流行します。もうしばらくは注意が必要です。手足口病は,発熱する割合が1~3割くらいですが,高熱になることは少ないです。手や指,足,臀部,膝,肘などに水疱がみられ,ほぼ同時に口の中にも粘膜疹が出現し,潰瘍化することもあります。口の痛みで,食事が摂れなくなることもあります。有効な薬はありません。食事が摂れて,熱もなく,経過が良好なら,集団生活を許可しています。溶連菌感染症は,大きな流行になっていませんが,小規模な流行が持続しています。溶連菌感染症は,季節により患者数の増減がみられますが,1年を通してみられる病気です。感染力が強いため,周囲に発生している時は,用心しましょう。主要な症状は,のどの痛みと発熱です。苺のような舌になることや全身に紅斑がみられることもあります。溶連菌感染症には抗生剤がよく効き,抗生剤を服用開始して,翌日には解熱します。もし解熱しない時は,溶連菌ではなく,他の病気の可能性が高いです。ペニシリン系やセフェム系の抗生剤を1~2週間内服することが必要です。治療終了後2~3週間の頃に,急性糸球体腎炎の合併症の有無をみるために,検尿を行うことがありますが,最近は腎炎を発症することが稀になり,肉眼的な血尿や体の浮腫といった,急性腎炎の症状に注意していれば,検尿は必須ではありません。

 おたふくかぜは週4人程度ですが,流行の持続がみられます。駆け込みで予防接種を受けられる方も多くなりました。中には,耳下腺の腫れが2週間くらい続く人もいますが,治療薬がないために,ただ経過をみるしかありません。昔は,おたふくかぜは子どもの時にかかっておくと軽くてすむからと,患者がいる家にわざわざ子どもを行かせて,接触させて,病気をうつしてもらうというようなことをしていた時代がありました。予防接種でおたふくかぜの予防をしたり,もしかかっても軽くてすむことが分かってからは,そのような危険な行為はみられなくなりましたが,おじいちゃん,おばあちゃん世代の方にはまだそのような考え方の人がいるかもしれません。しかし,治療法がないおたふくかぜで,髄膜炎になったり,難聴になったりする可能性を考えると,昔はとても怖いことをしていたんだと驚きます。

 感染性胃腸炎(嘔吐下痢症)が少しみられます。流行しているというほどではありませんが,ロタやノロなどのウイルス性胃腸炎と思われる症例を時々経験します。秋から冬にかけて多くなる病気ですので,家族に吐いたり,下痢する人がいる時には,吐物の消毒や手洗いの徹底が必要です。吐気止めの座薬や内服薬で吐気をしっかり抑え,水分を少しずつ摂取させるようにしましょう。吐気止めを使っても水分が摂れない時は点滴が必要になります。子どもは脱水になるのが早いですが,点滴すると1時間くらいで元気になってくれます。

 

 11月3日(木)文化の日は当番医になっています。急患の方が優先となります。

 年末年始は12月26日(月)午後から1月3日(火)まで休診となります。1月2日(月)は当番医を担当します

サンタ通信No207(10)裏 H28.10.18発行

子どもの咳について

 咳のことを医学用語では咳嗽(がいそう)と言います。3週間未満の咳ならば急性咳嗽,3

~8週間で遷延性咳嗽,8週間以上で慢性咳嗽という分け方をします。子どもが咳で受診する

ことは,小児科では発熱に次いで多い症状です。咳はどうして起こるのでしょうか?元来,咳

は口から肺までの気道中で,外部から侵入してきたウイルスや細菌,ほこりなどの異物を体から排除するための反射で,人間の自然な防御反応です。つまり,それを薬で抑えることは自然の流れに反することですが,子どもの咳が激しいと,夜の睡眠が障害されたり,食事や水分摂取が少なくなったりします。このような状況の時には,咳を鎮める薬を使います。咳は大きく分けて2つの種類があります。一つ目は乾いた咳で,タンがからまない「コンコン」という咳です。これはのどから肺にいたる全域で,気道の過敏性などによって起こります。タンは少なく,ゼーゼーすることもありません。鼻咽頭炎や喉頭炎などの上気道炎でみられます。多くはウイルスによるものです。それに対して,二つ目は湿った咳で,「ゴホンゴホン」という咳になります。痰がからんだ咳です。気管から肺にかけて炎症が起こる気管支炎や肺炎などで聞かれます。気管支炎や肺炎でも,初期は乾いた咳から始まり,次第に湿った咳になってきます。

 その他の咳としては,犬が吠えるような咳,オットセイの鳴き声のような咳が特徴的な犬吠性咳嗽があります。声もかすれてしまうことがあります。これは,気道の入口(喉頭)が狭くなることで起こり,急性喉頭炎でみられる症状です。狭窄が重度になると,声が出なくなり,窒息を起こすことがあるので,乳幼児にとっては,とても危険な咳です。また,顔を真っ赤にして咳込んだり,咳で吐いてしまうくらいの強い咳が出る時は,百日咳やピーナッツなどの気道異物が疑われます。

 

 遷延性の咳嗽や慢性の咳嗽では,喘息を含む気道過敏によるものや,副鼻腔炎で鼻水がのどに流れ込む病態でも起こります。気道感染後に咳をコントロールする中枢が過敏になってしまったり,気道で細菌やウイルスを外に送り出す働き(粘液線毛輸送)が障害されたりすることでも起こります。原因になる病気は,ウイルスや細菌による肺炎・マイコプラズマ肺炎・クラミジア肺炎などの感染症と,アレルギーが関係する気管支喘息や咳喘息,副鼻腔炎があります。いずれも経過をみていくことが大切で,咳がなかなか治まらないからと,病院を次から次へと替えてしまう方がいらっしゃいます。そうすると,病気の経過を診られませんので,どの病院でも最初から治療を始める必要があります。本当に治すためには,一カ所の病院で経過をみて,そこで経過が思わしくなければ,二次病院への紹介状を書いてもらい,詳しい検査をしてもらうというのが,安心な病院のかかり方です。

おたふくかぜの合併症について

 おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)の流行が続いています。この病気はムンプスウイルスにより起こされる病気で,発熱と唾液腺の腫脹が主症状になります。熱は1~6日間,唾液腺の腫脹は3~7日間続きます。治療しなくても,食事が摂取できれば,自然に治る病気ですが,合併症が多く,注意は必要です。

①無菌性髄膜炎:最も多い合併症で,2~10%の割で発生します。起こってくる時期は,耳下腺腫脹後,3~10日に発症することが多いです。発熱・頭痛・嘔吐の症状が出てきます。多くは良好な経過をたどりますが,稀に髄膜脳炎を起こすことがあり,油断はできません。

②膵炎:おたふくかぜ発症後1週間経過した時期に,数%の確率で起こります。発熱と激しい上腹部痛,嘔吐などの症状が急激に起こりますが,3~7日で徐々に軽快してきます。

③睾丸炎・卵巣炎:おたふくかぜの時に睾丸が腫れるということは,よく知られていますが,子どもではまれで,思春期以降の大人に多い合併症です。10~35%と高い確率で起こってきます。耳下腺腫脹後1週間以内に発熱,下腹部痛を伴い,急速に発症します。片方の睾丸が腫脹し,皮膚は赤くなり,痛みが強いです。3割は両側の睾丸腫脹を認めます。1週間くらいで軽快します。後遺症として睾丸の萎縮が起こることがありますが,片側だけの人が多く,不妊の原因になることは少ないと言われています。女性の場合は,卵巣炎を起こしてきます。合併率は数%程度です。下腹部痛の症状がみられ,睾丸炎と同じく,片側性のことが多いため,不妊の原因にはなりにくいと言われています。

④難聴:難聴を起こす頻度は2万人に1人という報告もあれば100~500人に1人という報告もあります。

この差は,片方だけの聴力がなくなるため,本人も周囲も難聴に気付かず,診断が遅くなり,おたふくかぜからくる難聴と診断できていないためだと思われます。この難聴は回復することが困難で,小学校入学前の健診で,片方の聴力がないことを指摘されて,おたふくかぜが原因ではと疑われることが多いです。