サンタ通信No206(09)表 H28.09.18発行

溶連菌感染症と手足口病に注意

 旅行会社のパンフレットを眺めながら,最上級の旅の案内が載っていましたが,南米を21日かけて巡るツアーが1人400万円となっていました。そんな旅をどんな人が申し込むのかなと気になりましたが,世の中には,お金に糸目をつけずに生活できる人もいるのでしょう。JR九州のななつ星が3泊4日で最高の部屋は2人1部屋で一人当たり80万円します。その値段でも,予約殺到で,抽選に当たらないと乗車できないほどの人気です。21日間の南米旅行も,日数から考えるとななつ星5回分ですので,料金も5倍になっても不思議ではないですね。よほど良い旅のアイテムを揃えているのだろうなと,うらやましく感じました。

 最近1週間(9月5日~9月11日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは,溶連菌感染症7人と手足口病7人でした。次いで,おたふくかぜ3人,突発性発疹症3人,RSウイルス感染症2人,ヘルパンギーナ1人,咽頭結膜熱1人でした。最近,また溶連菌感染症が増えつつあります。昨年が非常に大きな流行で,今年の夏に少し落ち着いてきていたのですが,夏休み明けで学校が始まり,また増えてきているようです。感染経路は飛沫感染で,家庭内や学級内で周囲の人に感染させます。熱が出ていない時ても,のどの痛みがあれば,感染力はあります。周囲に感染を拡げないために,のどが痛い時や発熱時は,マスクをしましょう。溶連菌の診断がついて,抗生剤を服用し始めたら,24時間で感染力はなくなりますので,それまで感染予防に努めましょう。

 手足口病は夏カゼの代表ですが,夏以外にも秋から冬にかけても流行がみられますので,のどの痛みと手足の発疹には,これからも注意が必要です。今年よくみるタイプは,大きな発疹が下肢に目立ちます。発熱はほとんどみられません。集団生活は,食事がしっかり摂れて,症状が軽い時は,登校登園は許可しています。注意する点は,ウイルスが便から治癒後2週間くらいは排出されますので,患者さんのおむつを触った時に手洗いをしっかりすることです。

 おたふくかぜはこれまでの大きな流行がピークを越えた印象ですが,まだ小さな流行が残っています。ワクチンが定期接種でないために受けていない人が多く,これからも流行は続くと思います。おたふくかぜは治療ができず,安静にしながら治るのを待つしかありません。重症になると,高熱が続き,頭痛や嘔吐を伴う髄膜炎になってしまいます。また,耳下腺の腫れが強いと聴神経が圧迫されて,難聴になることも稀にあります。これらの心配をしないですむように,予防接種をすることをお勧めします。1回接種だとまだ罹患する可能性が高いため,2回接種が推奨されています。小児科学会では1回目を1歳過ぎたら早期に接種し,2回目を5歳以上7歳未満で受けることを勧めています。大人がかかると症状が強く出ます。これまでかかったかどうか不明の時は,抗体検査をまず受けてから,抗体がない時にワクチンを受けるという方法もありますが,検査をせずに直接ワクチンを受けても問題はありません。また,家族におたふくかぜの患者が発生した時に,兄弟にすぐにワクチンをしたいと希望される方が時々いらっしゃいますが,残念ながら発病前に感染させているため,兄弟の発病後にワクチンをしても間に合いません。ワクチンは体調が良い時に,できるだけ標準的な時期に受けるようにしましょう。RSウイルス感染症については,冬から春に多い病気ですが,夏から秋にも患者さんは多いです。新生児や乳児がいるご家庭は咳が強いカゼに注意が必要です。

 

 9月24日(土)~25日(日)を休診とし,代わりに9月22日秋分の日と23日(金)を診療日とします。

 11月3日(木)文化の日は当番医になっています。急患の方が優先となります。

サンタ通信No206(09)裏 H28.09.18発行

当院の3歳未満の会計方法が変わりました

 これまで,当院では3歳未満の方の診療代は,小児科外来診療料という包括制度

を選択していました。これは,どんな検査や処置をしても,1日何回受診しても,1日当たり初診時で5,720円,再診時で3,830円という決められた額で計算するというものです。時間外や休日では加算されますが,それ以外は定額制になっています。この制度は,小児科が他の科と比べあまり検査をしないので,患者さん一人当たりの診療費が安くなってしまい,小児科の経営を安定させるために,国は包括制度を平成8年に策定しました。医療費の計算はとても細かい規定があり,説明が難しいのですが,全国の小児科で1人の患者から受け取る医療費の平均よりも少し高めに包括料金を設定し,包括制度を選択した小児科では,どんな検査をしても,点滴などの処置をしても,関係なく同一料金になります。

 

 ところが,最近はインフルエンザや溶連菌,RSウイルスなどの迅速検査が多くなり,また高価なアレルゲン検査なども希望されることが多くなってきました。これまでも当院では必要な検査は行ってきましたが,これからも充実した診療を行うには,包括制より出来高制の方が良いと思われましたので,9月から出来高制に変えています。検査や処置をしない方は,これまでに比べ,会計は安くなります。反対に,いろいろな検査をされた方は高くなってしまう可能性があります。もちろん,対象となる3歳未満の方には,こども医療助成費の制度があり,後で全額返ってはきますが,それでも窓口で一旦支払いますので,患者さんにとっては,毎回の医療費が家計に影響することもあります。新しい知事の三反園さんはこども医療費助成の窓口一時払いを完全ゼロにする公約を挙げていますので,それができれば,病院側も会計はかなり楽になって良いのですが,小児科医の中には,窓口支払いがなくなればコンビニ受診が多くなり,反対だという人もいます。子育ての安心のためには大事な政策だと私は思うのですが。

麻疹(はしか)の流行

 先月,関西空港で麻疹の集団感染が起こり,空港職員32人と診察や搬送にあたった医療関係者2人,一般客3人の合計37人が発症しました。おそらく,東南アジアなどからのお客さんから感染して,集団感染になってしまったようです。麻疹は,麻疹特有の発疹が出てきて,診断ができる前に人に感染してしまいます。発病初期の微熱と鼻水が出る時期が最も感染のリスクが高くなります。そのため,診断した人を隔離しても,すでに他の人へうつしている可能性があり,潜伏期の10日から2週間が過ぎないと,感染が拡大しているのか,抑え込みに成功したのかは判らないのです。

 日本では過去3年間,国内に由来するウイルスによる麻疹の発生がなくて,「排除状態」にある国だと去年WHOから認定されたばかりです。外から入り込んだ麻疹ウイルスによる感染者は昨年が年間35人でしたので,今年はすでにそれを上回っています。麻疹は自然に治る病気でもあるのですが,合併症も起こりやすく,肺炎や脳炎などがどの年齢層でもみられます。また,麻疹にかかった後,数年経ってから,けいれんが頻発し,寝たきりになる亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という病気になることもあります。麻疹のウイルスが脳の進行性の炎症を起こす病気で,残念ながら治療法がありません。私が市立病院に勤務した時に,この病気の患者さんを受け持っていて,どんな治療をしても効果がなくて,悔しい思いをしました。

 麻疹はワクチンによる予防ができます。現在1歳過ぎてなるべく早い時期と,就学前1年間の2回接種が無料で受けられます。その時期をはずすと,自費で受けなくてはなりません。アメリカでは自国に麻疹を持ち込ませないように,海外からの留学生に対しては,2回の麻疹ワクチンが済んでいることの証明か,麻疹に罹患して抗体ができていることの証明がないと留学を認めてくれません。ただ,旅行者から感染するのを防ぐ方法はなく,以前は日本の高校の修学旅行で,アメリカ訪問中に麻疹を発症したことがあり,日本はまだ,麻疹の輸出国だったのですが,麻疹排除国になった今日では,日本人からの感染はほとんどありません。アジアやアフリカなど,まだまだ麻疹が流行している国も多いです。多くの人が出入りする空港は,真っ先に感染者が出る危険性があります。多くの国民が,予防接種により免疫を獲得していると,流行は拡大しないですむのですが,まだ予防接種に対する評価が低く,日本では予防接種による副作用ばかりを気にする国民性があります。予防接種を受けずに,自然感染で免疫をつける方が,生涯免疫になって良いのだという主張をされる方もまだいます。しかし,世界中のほとんどの人が予防接種の重要性を理解しています。アジアやアフリカで予防接種が十分でないのは,経済的な面と健康教育の不足によるものです。日本で麻疹ワクチンの接種率が低いのは,鹿児島県です。2014年度はⅠ期が93.5%,Ⅱ期が91.4%でした。数年前は最下位でしたが,それから積極的な接種を県民に呼びかけ,不名誉な最下位はどうにか脱した状況です。