サンタ通信No193(08)表 H27.08.18発行

   夏休みでも感染症が多い!

 毎日暑い日が続きますが,私は夏休みをニューカレドニアで過ごしました。南半球にあるため,今は冬の季節で,気温は20℃前後,からっとした風が吹き抜け,昼は強い日差しで,Tシャツに短パンで十分,夜はトレーナーを着てちょうど良いくらいです。フランス領のため,フランス語ばかりの島ですが,フランス人が多いため,食事はとても美味しいです。ところで,日本では,もう今年冬のインフルエンザワクチンを注文する時期になりました。今年のワクチンはこれまでのワクチンと少し違い,4価のワクチンになっています。これまではA型2種類とB型1種類の3価ワクチンでしたが,今年からB型を山形系統とビクトリア系統の2種類に増やして4価になりました。今年は,2種類に増えたおかげで,B型もこれまで以上に効くのではと思っています。ただ,優れたワクチンは歓迎できますが,残念ながら,値段もそれなりに高くなってしまい,去年と比べ,1.5倍の値段になっています。そこで,当院でも接種料金を1回3,000円(1回目も2回目も同じ料金)にしました。去年までは1回目3,000円,2回目2,500円でしたので,2回接種のお子さんには,少し値上がりになってしまいますが,ご理解ください。予約は9月から始まり,接種は10月から開始予定です。

 さて,最近1週間(7月27日~8月2日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは,溶連菌感染症で63人でした。次いで,手足口病35人,RSウイルス感染症6人,ヘルパンギーナ4人,伝染性紅斑4人,突発性発疹3人,水痘2人,咽頭結膜熱2人でした。夏休みで集団生活が少なくなり,感染症も少し減少しましたが,それでも,例年の夏に比べれば,患者数は多く,溶連菌感染症と手足口病は大きな流行のまま続いています。お盆の帰省で多くの人が大移動しますので,それに伴い,感染症も全国的に拡がってしまう可能性があります。休み明けは,周囲にどんな感染症が流行しているのか,気をつけながら,手洗いなどの感染防御に心がけましょう。夏カゼの中で,手足口病はまだまだ多いのですが,ヘルパンギーナはかなり少なくなってきました。一般に,ヘルパンギーナは9~10月に流行は終息していきますが,現時点ですでに患者数が減りつつありますので,ヘルパンギーナについては,今後安心できると思います。手足口病は夏だけではなく,秋から冬にかけても流行が少しあります。今年の流行状況をみると,まだ注意が必要だと思われます。高熱が続き,頭痛・嘔吐など髄膜炎を合併する人は当院では診ていませんが,口の痛みで水分や食事の摂取ができなくなって,ぐったりするお子さんもたまにはいらっしゃいます。イオン飲料やスープなどを少しずつでも摂るように心がけましょう。口の中の痛みは2~3日でピークを過ぎ,食事が摂れるようになりますので,その2~3日間は,お子さんが嫌がらずに口にしてくれる食材,例えばミルクやゼリー,プリンなども試みてください。

 RSウイルス感染症が急に多くなってきました。例年は冬に多い感染症ですが,ここ数年は夏から流行が始まり,冬にかけて増えていくパターンをとっています。赤ちゃんが咳や鼻水が出始め,兄弟に咳の症状があれば,RSウイルスが結構な割合で陽性に出ます。3か月以下の赤ちゃんなら,半数以上が入院になる怖い病気です。1歳以上ではほとんど入院になることはありませんので,年齢により,病気の重篤度が大きく異なるのが特徴です。未熟児で生まれた赤ちゃんや1か月以下の赤ちゃんは,突然呼吸を止めてしまい,そのまま無呼吸で死亡することがあるため,呼吸状態をしっかり観察しなければなりません。機嫌が良くて,哺乳もいつもと変わらずできている場合は,外来で診ていくことができますが,ゼイゼイするような呼吸音が聴かれる場合は,無理をせず,入院治療を選択します。発症後1週間は要注意の期間になります。その後も強い咳は続きますが,無呼吸を起こすような重い病状にはならずにすみます。RSウイルスの特効薬はありません。

サンタ通信No193(08)裏 H27.08.18発行

   おたふくかぜの流行

 最近,おたふくかぜの患者さんを時々診るようになりました。抗体検査でもしっかり陽性になるので,鹿児島でも少し流行がありそうです。水痘が定期接種になった途端,患者数が著減しましたが,おたふくかぜはワクチンが有料のためか,時々流行がみられます。おたふくかぜは正式には流行性耳下腺炎といいます。原因はムンプスウイルスです。人から人へ,唾液を介して伝染します。潜伏期間は2~3週間です。症状は,発熱と耳下腺の痛みを伴う腫れです。よく頬が腫れているからとおたふくかぜを心配される方がいらっしゃいますが,耳の下の付け根付近を中心に腫れてきます。腫れている部分をちょっと押さえるとかなり痛がります。耳下腺だけでなく,あごの下にある顎下腺も一緒に腫れることがあります。このムンプスウイルスは唾液腺で増殖するため,耳下腺や顎下腺で炎症を起こし,腫れや痛みを起こしますが,唾液腺とよく似た組織の睾丸や卵巣,膵臓などでも同様に炎症を起こすことが知られています。大人になってからのおたふくかぜは「睾丸が腫れて不妊の原因になるから怖い」とよく言われます。思春期以降の男性では4人に1人は睾丸炎を合併しますが,ほとんど片側の炎症ですみますので,実際に不妊症を残すことはまれです。思春期以降の女性の場合は,30%に乳腺炎の合併が,5%に卵巣炎の合併があります。このような合併症は思春期以前の小児ではほとんど起こりません。また,妊婦さんが妊娠初期におたふくかぜにかかってしまうと約30%の人は自然流産するといわれています。子どものおたふくかぜで注意が必要なものは髄膜炎・脳炎の合併です。10歳以下の子どものおたふくかぜの3~10%に髄膜炎を合併します。高熱と強い頭痛,嘔吐がみられます。けいれんや意識障害を伴う脳炎でなければ,髄膜炎だけの合併は経過良好なことが多いです。最後に注意しておくべきこととして,耳の下が大きく腫れた場合に,そこを通る聴神経が圧迫されて障害され,約1,000人に1人の割合で難聴になることがあります。回復することは少なく,片方の耳が聞こえないという後遺症を残してしまいます。おたふくかぜにはワクチンがあり,予防ができます。ワクチンを受けると,85~90%の人はおたふくかぜにかからずにすみます。麻疹や水痘と同じで,2回接種が望ましいです。1歳過ぎてすぐと,小学校入学前の2回が標準的な接種時期です。

   とびひについて

 夏休みにキャンプに行って虫に刺されたり,暑い中,走り回ってあせもができたりすると,痒くて皮膚を引っかいてしまいます。皮膚は体を細菌から守るバリアの役割を担っています。そのバリアに引っかき傷をつけてしまうと,その傷から細菌が入り込んで,膿疱という水がたまったような水疱になります。この水疱の中には細菌がいっぱいいて,水疱がつぶれると,内容液が飛び散ったところに,また新たな水疱を作るという形で,飛び火のように広がっていくので「とびひ」と言われます。「とびひ」の正式名称は,伝染性膿痂疹です。顔面や手足に多く,大豆大の薄い水疱が次々にできます。ちょっと触っただけでも破けてしまいます。昔は,抗生物質を含んだ軟膏を塗るだけで治ることが多かったのですが,最近は,抗生物質に抵抗性を持つ黄色ブドウ球菌がほとんどで,軟膏を塗るだけでは抑えられません。抗生物質を内服したうえで,軟膏を塗布します。引っかかないことが大切で,痒がる子どもには痒み止めの内服を併用します。爪を短く切り,シャワーで患部を清潔に保つことが重要です。元々アトピー性皮膚炎をもっているお子さんは,とびひになりやすいので,普段から保湿して,皮膚のバリアを高めておくことが重要です。手足口病の手足の水疱を引っかいて,とびひになっているお子さんもいます。お子さんの皮膚の状態を,よく観察しておく習慣をつけておきましょう。

 ところで,抗生物質を内服しても「とびひ」や中耳炎がなかなか良くならない場合があります。これは薬剤耐性菌によるもので,抗生物質に対して抵抗できる菌が多くなってきています。人間が抗生物質を作り,細菌を殺そうとすると,細菌も生き延びようとして,抵抗力をつけていきます。すると,人間はまた新たな抗生物質を作り,生き延びた細菌に効く薬を開発します。そのような菌と薬の争いの中で,ほとんどの薬が効かない細菌が出て来ています。抗生物質がそれほど必要でない場面でも,日本では抗生物質の処方が盛んです。病院で抗生物質が処方されないと,患者さんから「抗生物質を処方してください」と言われる方も多いです。子どもに熱が出ても,その90%はウイルスによるもので,抗生物質は効きません。病気が進行してくると,細菌感染の合併も出てきますので,その時には抗生物質が必要になりますが,ほとんどのカゼの時には抗生物質は不要なのです。小児科医は,その子の症状と身体所見から,抗生物質が必要かどうかを判断しながら,処方します。医師と患者さんの信頼関係が大事ですね。