サンタ通信No187(02)表 H27.02.18発行

  A型インフルエンザは減少傾向

 2月とはいえ,時々暖かい日もみられるようになりました。モクレンやネコヤナギのつぼみが目立ってきて,春の足音が聞こえ始めたようです。これらのつぼみは,必ず北を向いています。まるでコンパスのような働きをするのでコンパス・フラワーとも呼ばれます。つぼみの中で南向きの部分が日当りが良く,膨らむのが早いため,つぼみの先が北を指します。

 さて,最近1週間(2月9日~2月15日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは,インフルエンザで47人でした。次いで,溶連菌感染症40人,水痘7人,感染性胃腸炎6人,伝染性紅斑3人,おたふくかぜ3人,RSウイルス感染症2人,突発性発疹1人,手足口病1人でした。インフルエンザが多い時は1月下旬に週200人を超えていましたが,ここ最近は3週連続で減少しており,ピークは過ぎたようです。ただ,B型はまだ流行していませんので,もうしばらくはインフルエンザの流行状況に注意が必要です。そろそろB型が出ているという話を耳にします。いつもなら,B型がこの時期から1か月くらい続いた後,インフルエンザ全体が終息していきますので,3月いっぱいは油断することなく,体調管理をしましょう。

 溶連菌感染症も依然として流行が続いています。インフルエンザと溶連菌の両方に同時に感染している場合も結構あります。溶連菌が疑わしい,のどの所見があれば,積極的に検査をしています。周囲にインフルエンザの患者がいれば,インフルエンザの方も検査をするようにしています。両方の病気に対する治療ができていないと,熱が長引き,お子さんがきつい思いをしてしまいますから。溶連菌感染症の治療は抗生剤を7日~10日間内服することです。薬を飲み始めて翌日には解熱し,元気になりますし,解熱後1日で集団生活も許可されますが,1日3回の薬は最後まできちんと服用しないと,また再発して周りに感染を広げてしまいます。最後まできちんと治療を終えることが,この病気では一番大切なことです。

 水痘はしばらく大きな流行がなかったのですが,最近少しずつ流行してきています。昨年に水痘ワクチンが定期接種化されて,多くの赤ちゃんに1回接種が済んでいます。あと1年もすれば,2回目の接種も受けた赤ちゃんが多くなってきますので,水痘の流行は,その頃にはほとんど見られなくなっているかもしれません。麻疹・風疹の2回接種が認知されてからは,麻疹や風疹の患者さんを診なくなって久しいです。若い小児科医は,これらの患者を一度も診たことがないかもしれません。水痘もそんな時代が近い将来,来ることになるでしょう。

 それに比べ,おたふくかぜもワクチンはありますが,自費での接種になります。そのため,接種率はまだ低く,流行が時々見られています。おたふくかぜは水痘と違い,特効薬がありません。軽くて済むのか髄膜炎のような重いおたふくかぜになるのかは,すべて運任せです。私個人の意見では,おたふくかぜこそ,定期接種にして,全員が受けるようにしてほしいワクチンです。世界中の先進国はすべて定期接種になっています。MMRという麻疹・風疹におたふくかぜを加えたワクチンを使っています。以前に日本もこのワクチンを導入したことがあって,ようやく先進国に追いついたと思ったものの,MMRワクチンの副反応として,無菌性髄膜炎が千人に1人の割で起こり,中止になってしまいました。おたふくかぜ単独のワクチンならもっと副反応は少なかったのですが,麻疹・風疹のワクチンと併せたことにより,強い反応が出たものと思われます。実際におたふくかぜにかかると,髄膜炎を合併する確率はワクチンの10倍以上にもなります。耳下腺の腫れによる聴神経の圧迫で,難聴になってしまう人が千人中に数人いますし,大人のおたふくかぜでは,精巣炎や卵巣炎による不妊症もよくみられます。おたふくかぜ単独のワクチンは副反応は少ないので,是非とも全員に接種したいものです。

サンタ通信No187(02)裏 H27.02.18発行

  リンゴ病のこと

 リンゴ病が少しずつ流行してきています。一般にリンゴ病という名前で言われていますが,医学的には伝染性紅斑という病名になります。ヒトパルボウイルスB19(最近はエリスロウイルスB19と呼ぶ)というウイルスが原因です。5年周期で流行がみられており,集団生活をする園児や小学生に好発します。一度かかると,終生免疫ができて,二度とかかることはありません。このウイルスは,くしゃみなどの飛沫感染でのどに入り込み,そこから骨髄の赤芽球に感染し,感染後1~2週間の時に,ウイルスが血液で増殖し,熱が出ることもありますが,高い熱は出ません。出ても37℃台の発熱です。この時期には,患者さんの骨髄の中では,赤血球の生産が一時停止してしまいます。このため,溶血性貧血という血液の病気を元々もっている患者さんにとっては,重篤な貧血状態を引き起こすことがあり,注意が必要な病気です。ウイルスに対する抗体ができて,病気が回復してくる時期に両頬と手足に発疹が出現します。頬がリンゴのように真っ赤になることから,リンゴ病と呼ばれていますが,実際は,病気が治ってきた時にできる発疹によって,診断がされているわけです。発疹は1週間くらいで消えていきます。感染する時期は,発疹が出る2週間前で,ほとんど症状のない時に人に感染させてしまいますので,予防する手段はありません。大人や思春期の人がこの病気になると,関節痛が出ることがありますが,子どもではほとんどありません。また,このウイルスが妊婦さんに感染すると,胎児にも感染が起こり,胎児が死亡することがあります。家族にこの病気が発生した時は,家族全員,妊婦さんとの接触は避けた方がよいでしょう。治療は,痒みが強い時は,痒み止めを内服するくらいで,集団生活も全身状態が良ければ,休む必要はありません。

  インフルエンザのABC

 インフルエンザにA型とB型があるのは,皆さんご存知だと思います。実はC型も存在します。人に感染するインフルエンザウイルスはその構造の違いでA型,B型,C型と3種類に分けられ,C型ウイルスが感染すると,C型インフルエンザと診断されます。では,このC型インフルエンザとはどういうものでしょうか。ウイルスの構造や現れる症状がA型やB型とは大きく異なっています。5歳以下の子どもに感染し,鼻水が多く出るような鼻カゼの症状が出ます。A型やB型と違い,冬に多くなるという季節性はありません。1年中発生しており,しかも一度かかると,一生の免疫ができて,二度とかかることはありません。ほとんどの人は子どもの時にかかっています。症状が軽く,合併症もないため,C型インフルエンザはA型・B型とは区別して,別枠のインフルエンザとして考えられています。

 ところで,A型とB型の違いにはどのようなものがあるでしょうか。A型は非常に変異しやすい性質を持ち,これまでに大流行を起こしてきました。A型は毎年のようにかかってしまいます。治った後にA型の抗体ができても,変異したウイルスが次の流行を引き起こすため,また感染してしまうのです。ワクチンもこの変異にうまく対応できていれば効果が上がりますが,変異に対応できなかったワクチンでは,効果が低くなります。一方,B型はあまり変異を起こさないため,一度感染すると,数年間はB型にかからずに済みます。このため,B型が大流行することはあまりありません。ワクチンも変異が少ない分,効果は安定しています。

 A型は,これまでA香港型とかAソ連型とか呼ばれて分類されていました。ウイルスの表面に付着している突起の種類で,HA16種類とNA9種類に分類され,A香港型はH3N2,ソ連型はH1N1と表現されます。ソ連型の変異したウイルスでH1N1亜型が5年前に流行した新型インフルエンザ(豚由来と考えられたため,豚インフルエンザと呼ばれています)です。今一番恐れているのは,鳥インフルエンザH5N1とH7N9です。ともに,中国などの東南アジアで,鳥と一緒に生活している人が患者になり,死亡率は50

%前後と非常に強毒性のウイルスです。現在は,人から人への感染が,まだ限局的にしか起こっていないため,世界中に拡がることはありませんが,人から人へ感染するようになれば,あっという間に,全人類は重大な被害を被ることになります。日本も,この鳥インフルエンザに対しては,ワクチンができるまでの期間に,なるだけ拡大させないように,国内に非常事態宣言をして,人の移動を禁止するなど,対応策をいろいろ考えていますが,現実問題になった時,日本だけの問題ではなく,国際的な協調が絶対に必要になります。何億人もの犠牲者が予想される新型インフルエンザのパンデミック(世界的な感染症の流行のこと)に対して,普段から,周囲の国々と協調体制がとれるようにしておきたいですね。