サンタ通信No183(10)表 H26.10.18発行

       溶連菌感染症が増加

 台風が2週連続で襲来しました。最初の18号は鹿児島に近づく途中で,東の方へ向きを変えてくれたおかげで,鹿児島はあまり被害はなかったのですが,19号は枕崎に上陸し,強い風が吹きました。予想では,大型で非常に強い台風でしたので,戦々恐々としていました。しかし,この台風も上陸した後は,雨もそれほど強くなく,風が暴風域を抜けるまで強く吹いただけで済み,ほっとしました。災害はいつ襲ってくるか分りません。このところ,御嶽山が噴火し,その犠牲者が50人を越えたり,アフリカのエボラ出血熱の死亡者が4,000人を越えて,さらにはアメリカ国内でさえも,医療従事者へ感染が飛び火したというニュースに心を痛める毎日ですが,私たちは,日々を平穏に過ごせていること自体に感謝すべきで,そのありがたさをつい忘れてしまいがちです。家族が元気で一日暮らせたこと,それだけで「ありがとうございます」と感謝しながら生活すると,豊かな気持ちになります。その生活ができなくなって,初めて失ったものの大切さに気付きます。

 さて,最近1週間(10月6日~10月12日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは溶連菌感染症で46人でした。次いで,手足口病12人,RSウイルス感染症4人,水痘3人,ヘルパンギーナ2人,突発性発疹2人,おたふくかぜ2人,咽頭結膜熱1人,感染性胃腸炎1人でした。溶連菌感染症が先月と比べて倍増しています。この病気は,夏に流行が小さくなり,冬に大きくなります。今月,倍増したということは,冬に向けて,これからますます増えてゆく可能性が高いです。家族に溶連菌感染症の患者が発生した場合は,他の家族にのどの痛みや発熱など,溶連菌の症状がないか注意しておきましょう。治療の抗生物質も指示された日数をきっちり服用することが大事です。抗生剤を服用し始めて24時間経過すれば,他の人への感染力はなくなるとされています。その間は自宅で安静にしておき,マスク,うがい,手洗いなど,感染防止に努めましょう。

 夏カゼの手足口病がまだ流行しています。患者数は週12人程度とそれほど多くありませんが,この手足口病は,1年を通して流行がみられ,夏と秋に流行のピークがあります。そのため,今後もしばらくは流行に注意が必要です。今流行しているのは,38℃程度の熱が1~2日間続き,口の中に口内炎を認め,手足に小さな水疱がみられるタイプが多いようです。同じウイルスによって引き起こされるヘルパンギーナは週2人とほとんど流行がなくなりました。この病気は夏以外はあまり流行しませんので,今後はあまり心配しなくてもよさそうです。

 RSウイルス感染症は依然として流行が見られています。このRSウイルスの診断は,鼻水を綿棒で採り,その場で結果が判る迅速検査で調べます。ただ,1歳以上で基礎疾患がないお子さんに対しては,保険適応がなく,自費になってしまいます。この病気で重症化しやすいのは,3か月以下の新生児・乳児ですので,この年齢でカゼ症状があれば,この迅速検査を積極的に調べるようにしています。この年齢層で罹患してしまうと,呼吸困難が次第に強くなり,哺乳量も少なくなってきます。半数くらい

は入院が必要になってしまう怖い病気です。年齢の高い子ども達や大人が感染すると,しつこい咳のカゼといった程度で済んでしまいますが,周囲に感染を拡げてしまいますので,咳

が出ている人は赤ちゃんには近づかないようにしてください。特効薬はありませんが,吸入処置で一時的に呼吸は楽になります。毎日のように吸入しながら,どうにか乗り切れること

もありますが,3か月未満の赤ちゃんは無理をせず,入院治療を勧めることが多いです。

 

11月24日(月)振替休日は当番医を担当します。年末年始は12月28日(日)~1月4日(日)が休診となります。1月3日(土)は当番医を担当します。救急患者の方は受診されてください。

サンタ通信No183(10)裏 H26.10.18発行

       子どもの発熱

 子どもの発熱は,小児科の外来を受診する患者のうちで最も多い主要症状です。よく保育園などで37.5℃あって,親に連絡があり,そのまま病院を受診しましたという人も多いです。一般に,子どもの平熱は36~37.5℃です。発熱と考えるのは37.5℃以上の時です。予防接種を受ける時の体温が37.4℃で,他に症状や異常な身体所見がなければ,予防接種を受けることができます。体温の測定方法でも誤差は出ます。電子体温計,耳式体温計,水銀体温計,それぞれの特徴があり,電子体温計の中で,短い時間で計れる予測式のタイプでは少し高めに出ます。測定する場所が,脇の下か,口腔内かでも大きく差が出ます。口腔内は脇の下よりも高くなります。時間帯でも体温は変わります。午前中は低く,午後に高くなります。また,哺乳時や啼泣時は普段の時よりも0.2℃くらい高くなります。このように体温は,その時の状況で変化します。37.5℃でも,38.0℃でもあまり違いはないと思ってよいでしょう。ところで,人間の体はどこまで体温が上がるでしょうか?通常の感染では,41.5℃を越えることは,まずありません。体温調節ホルモンが働き,体が危険な体温になった時に,発汗させて熱を下げようとするからです。もっと低い体温38℃や39℃でも体温調節機能は働いているのですが,病気の初期は40℃出ていても,汗はかきません。これは体温を上げることにより,体に入ってきた細菌やウイルスを殺そうと体が機能しているからです。細菌やウイルスが殺されて,病気が治りかけてくると,上がった体温を元に戻そうとして,汗をかかせるのです。41.5℃のような差し迫った危険が起こると,解熱性ペプタイドという物質が脳内に放出されます。これにより,強制的に汗をかかせて,解熱させ,体を守ろうとします。熱に対する,一種の安全弁の役割を果たしています。

 ところで,熱の高さと病気の重症度は比例しません。赤ちゃんが初めて熱を出した時は,突発性発疹の可能性が高いです。この時,39℃を越える熱が3日間続きますが,赤ちゃんは熱の割に元気で,手足もよく動きます。こんな場合は,熱が高くてもそれほど心配しなくていいです。反対に,38℃くらいの熱でも,顔色が悪かったり,周囲に対する反応が鈍かったり,哺乳力が極端に落ちていると,髄膜炎などの重症感染症を引き起こしている可能性があり,緊急に受診する必要があります。一般に3か月未満の赤ちゃんが熱を出すと,原則,入院治療が望ましいとされています。私たち小児科医も,これまで先輩からそう教えられてきました。しかし,その中には兄弟からうつされたカゼで発熱していることも結構あります。そのような赤ちゃんは,しっかり哺乳できていれば,外来で経過をみることができます。もちろん,重症の病気がないかどうかは,血液検査をして確認することが必須です。CRPという炎症の強さを示す項目を検査し,2.0mg/dl以下なら,ウイルス性を考え,2.0mg/dl以上なら,細菌性の可能性が高くなり,入院でみることが望ましくなります。1か月未満の新生児では,細菌性の場合はもちろん,ウイルス性の場合でも,重篤になる場合がありますので,検査結果にかかわらず,入院が良いと思います。

 さて,解熱剤(げねつざい)について,説明します。小児科で使う解熱剤は,アセトアミノフェンです。商品名は内服薬でカロナール,サールツー,コカールなど,座薬ではアルピニー,アンヒバなどの商品があります。これらは,すべてアセトアミノフェンで,どのお子さんでも,少なくとも一度は処方されたことがあると思います。大人ではこれらの解熱剤を1日3回服用させて,高熱の苦しさを緩和する方法がとられることがあります。でも,小児科では定期的に解熱剤を与えることは,ほとんどありません。熱型をしっかり判断することが病気を知る上で,大切なことだからです。1日3回解熱剤を服用すると,本当の熱型が隠されてしまい,診断を誤ることになりかねないのです。そこで,小児科医は頓服として,熱が高い時だけ服用させます。一時的に汗が出て,1~2時間解熱します。解熱剤を使わない主義の小児科医もいますし,ご両親がお子さんに解熱剤を使いたくないという方もいらっしゃいます。もちろん,それはそれで構いません。発熱自体が,体の正常な働きの一つですから,無理に下げる必要はありません。無理に下げて,薬の効き目がなくなった時に,急激な体温上昇が起こって,熱性けいれんを起こすこともあります。ですから,解熱剤を使わずに,首筋を冷やすクーリングなどで熱の経過をみることが,発熱に対しての一番良い方法です。それでは,どうして解熱剤を処方するのでしょうか?高熱があると,こどもはすぐにぐったりして水分が摂れなくなったり,ぐずって眠りが妨げられたりします。病気を治すには,十分な水分補給が必要ですし,十分な睡眠も大事です。ですから,水分が摂れて,機嫌もあまり悪くない時は解熱剤は不要です。反対に,水分が摂れていない時は,脱水状態に陥り,全身状態が悪くなります。水分が足りないと,汗で体温を調整する働きがうまく作用しません。そのため,解熱剤を使って,40℃の熱が1時間でも39℃まで下がると,子どもは少し気分がよくなります。その時に水分補給ができると,子どもの体調は格段によくなります。そのための解熱剤だと考えてください。