サンタ通信No182(09)表 H26.09.18発行

       RSウイルス感染症に注意

 9月9日にスーパームーンが見られるということで,皆さんの中にも,中秋の名月を見られた方が多かったのではないでしょうか?私もその日の夜に,錦江湾の方角に満月が出てきたのを見ました。確かにいつもに比べ,大きくて明るいお月様でした。ところで,久しぶりに職員旅行を今月15,16日に実施しました。以前は毎年,職員旅行を実施し,これまでにディズニーランド,ディズニーシー,ユニバーサルスタジオ,北海道,四国,沖縄,アルペンロード,京都,韓国などへ行きましたが,職員が結婚,出産,子育てと,なかなか旅行がまとまらなくなり,しなくなってしまいました。今回,職員から沖縄に行きたい強い要望があり,10名で行ってきました。お天気に恵まれ,海の色もコバルトブルーで癒されました。初めて美ら海水族館へ行き,あの巨大な水槽で悠々と泳ぐジンベイザメやマンタなど超ビッグな魚も見てきました。外では,イルカのショーがあり,よく訓練された数頭のイルカがおり,素敵な芸で観客を魅了していました。そのショーを見たサンタの職員達も,きっと患者様に喜んでいただける仕事とは,チームワークと勉強を続けることなどが大切だ,ということを感じとったと思います。

 さて,最近1週間(9月8日~9月14日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは溶連菌感染症で25人でした。次いで,RSウイルス感染症13人,手足口病5人,ヘルパンギーナ3人,突発性発疹3人水痘2人,咽頭結膜熱2人でした。夏に感染症が少なくなり,小児科医として,少しのんびりできたのですが,9月に入って急に,RSウイルス感染症が増えてきました。そのために外来が忙しくなってきました。もともと冬に多い感染症ですが,去年も9月から急増しました。これから冬にかけて注意が必要な感染症です。詳しくは裏のページにRSウイルス感染症のことを書きましたので,参考にしてください。

 溶連菌感染症は,1年を通して多い状態が続きました。薬は十分効いているのですが,周りに患者さんがいると,治療後また感染しますし,薬の服用が苦手なお子さんは,抗生剤を1,2回うまく飲めなかっただけで,治療に失敗することがあります。1週間の抗生剤服用で再発する人は,10日間続けてもらったり,2週間続けることもあります。登園や登校は抗生剤内服開始後24時間経過すると,他人に感染させるだけの力はなくなります。治療開始した翌日だけ休めば,その後は集団生活は可能です。ただ,激しい運動などは,治療している間は避けましょう。抗生剤を服用し始めて2日経過しても,熱が下がらない場合は,溶連菌感染症だけではなく,他の病気が隠れていることがあります。その時は,速やかに病院をまた受診されてください。治療終了後に腎炎を合併することが稀にあります。昔は溶連菌感染症後の急性腎炎は珍しくなかったのですが,最近はほとんど腎炎を合併した人を診ません。そのため,溶連菌感染症の後に尿検査を必須としていませんが,心配な方は治療終了後に2週間くらい経過した頃に,受診していただければ,尿検査を致します。自宅で経過をみられる方は,その時期に尿量の減少や眼瞼のむくみ,目で見えるような血尿が腎炎のサインとして出てきます。それらの症状に注意をしておけば良いと思います。

 夏カゼのヘルパンギーナや手足口病は,かなり少なくなってきました。これからはシーズンが終わりますので,もう心配はないでしょう。水痘とおたふくかぜが小さな流行として時々あります。どちらもワクチンで予防ができますので,できれば2回接種で,しっかりした免疫をつけておくことをお勧めします。インフルエンザの予防接種も10月初旬より始まります。水痘の無料接種も10月からです。来月は予防接種が忙しくなりそうです。皆さんも,お忘れにならないように,できれば早めに受けるようにされてくださいね。

 

11月24日(月)振替休日は当番医を担当します。

サンタ通信No182(09)裏 H26.09.18発行

       RSウイルス感染症について

 RSウイルスは乳幼児の呼吸器感染症を引き起こす,代表的なウイルスです。生後1歳までに半数以上の子どもが感染し,2歳までにほぼ100%の子どもが感染するとされています。1回だけでなく,何度も感染しますが,2回目,3回目となるに従って,重症度は軽くなります。もともと冬に多い感染症ですが,最近は夏場でもよく診られるようになってきました。昨年も,9月以降,患者数が急増しました。感染経路は,咳やくしゃみによる飛沫感染と,ウイルスが付着した床やコップなどを触って,口に入る接触感染があります。潜伏期間は4~6日間とされています。発熱、鼻汁などの上気道炎症状が数日間続いた後、咳込みやゼーゼーがみられるようになり,初めてかかるRS感染の子どもだと,20~30%に細気管支炎や肺炎といった合併症がみられます。小学生以上の子どもにとっては,咳がひどいカゼくらいですみますが,乳児や未熟児にとっては,命にかかわる怖い病気です。症状は,発熱,咳,鼻水で発症し,初めてRSウイルスに感染した赤ちゃんの7割は,軽い咳や鼻水のカゼ症状だけで終わりますが,残りの3割くらいの赤ちゃんはゼーゼーしてきて,呼吸困難の症状がみられるようになります。診断は,咳の強い赤ちゃんに対して,鼻水を綿棒で取って,迅速検査で調べることができます。1歳以上の子どもに対しては,あまり重症化しないということで,検査は1歳未満に限って,健康保険が適応されます。このRSウイルスは乳幼児の肺炎の原因として50%を占め,細気管支炎の50~90%を占めると報告されており多くの子どもが入院しなければならない状況をつくり出している,大変なウイルスなのです。

 治療方法は特にありません。咳に対する薬など,対処療法でみていくしかありません。哺乳や食事がしっかり摂れているうちは大丈夫です。予防する薬は,ワクチンではありませんが,人工的に作られたウイルスに対する抗体製剤であるパリビズマブという薬があります。早産の赤ちゃんと心臓病や免疫異常をもつ2歳以下の乳幼児が対象で,この対象者がRSウイルスにかかると,危ないということです。当院ができて,診療を始めた頃,1000g以下で生まれた未熟児が咳と鼻水で受診し,待合室で呼吸が止まり,救急車で病院へ運んだことがありました。この時もRSウイルスによるもので,呼吸が度々止まるため,大学病院で人工呼吸器に1週間つながれて,一命を取り留めることができました。それ以来,未熟児や新生児のカゼ症状を診ると,必ずRSウイルスを検査するようにしています。生まれてすぐは,母親から受け継いだRSウイルスに対する抗体が存在しており,母親と同じレベルにあると言われています。それなら,赤ちゃんはRSウイルスにかからないはずですが,この抗体があるからといって,感染防御を意味せず,抗体をもつ6か月以内の赤ちゃんはその多くが重症化してしまいます。7か月以降に検出される抗体は,ほとんどが母体由来ではなく,自然界で感染したことによる抗体だということです。

 最近は,3か月くらいの赤ちゃんも保育所で預かりますが,一人でも患者が発生したら,0歳児のクラスにうつさないように,職員のマスクや手洗いの徹底など,最大限の努力をすることが大事になります。厚生労働省が出している保育所における感染症対策ガイドラインでは2歳未満児と2歳以上児のクラスを構造的に分離できるようにしておき,RSウイルス感染症の流行期には交流を遮断するように書かれています。また,3か月未満で保育所へ通うことは,RSウイルス感染症のハイリスク群であり,今後医学的な知見から対応について検討することが必要とも書かれています。軽い咳・鼻水だけの人が実際はRSウイルス感染症で,他の人にうつしてしまうことは,よくあることです。そのため,保育所などでRSウイルス感染症を完全に予防することは不可能です。特に1か月くらいの新生児がRSウイルスに感染すると,咳をする時に突然,呼吸を止めてしまい,突然死することがよく知られています。親が働くために保育所は必要かもしれませんが,せめて3か月を過ぎるまでは集団生活させないで,親元で育てられるような環境にしてあげたいものです。赤ちゃんにとって一番安全に過ごせるのは,両親のもとでしょうから。子育てのためのいろいろな政策が出されますが,働く親のために便宜をはかる政策が多く,赤ちゃんの健康を考えた政策は,少ないように思われます。