サンタ通信No178(05)表 H26.05.18発行

       夏が来た?

 病院で白衣を長袖から半袖に今月から替えました。いよいよ夏に向けて準備をしようと考えていたら,急に30℃近い気温になってきて,初夏から一気に夏本番と思える日も多くなってきました。夏の猛暑を考えると,もうすぐ還暦を迎える私としては「お手柔らかにお願いします」と神頼みしたくなります。昔は夏が一番好きな季節だったのに,残念です。暑くもなく,寒くもない春と秋が過ごしやすく,この季節ができるだけ長く続いてほしいと願うのですが,鹿児島の気候は,春と秋が短く,強烈な暑さの夏と寒い冬の二極化された四季が目立っています。それでも,庭に今咲いているバラとブーゲンビリアがとてもきれいです。植物は猛暑だろうが,冷夏だろうが,いつも通り咲いてくれます。自然の偉大さには感心させられます。

 さて,最近1週間(5月7日~5月13日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは溶連菌感染症25人でした。次いで,感染性胃腸炎9人,インフルエンザ5人,水痘5人,咽頭結膜熱2人,手足口病2人,ヘルパンギーナ1人,RSウイルス感染症1人,突発性発疹1人でした。溶連菌感染症の流行はそろそろ減少してきています。夏に向けてはさらに減っていくのではないでしょうか。感染性胃腸炎は,ほとんどがノロウイルスやロタウイルスによるウイルス性胃腸炎ですが,時々カンピロバクターによる細菌性胃腸炎が混じってきます。カンピロバクターは,鶏刺しが食卓に上る鹿児島の食文化ならではの感染症です。抗生物質が効きますが,子どもが吐いて,水のような下痢に苦しむのを見ると,鶏肉は生で食べない方が良いのではと,いつも感じてしまいます。カンピロバクター腸炎の合併症として知られている,ギラン・バレー症候群(多発性神経炎)はカンピロバクター腸炎の患者1000人に対し1人の割で起こります。手足が麻痺したり,重症の時は呼吸筋も麻痺して,人工呼吸器を使うこともある病気です。カンピロバクターに感染して1週間後くらいに起こってきます。そんな子ども達の治療を市立病院勤務時代にたくさんしてきましたので,私は今,鶏刺しは食べなくなりました。昨年,バーベキューに誘われた時に,参加者の1人が大量の鶏刺しを持参していました。勧められると,さすがに面と向かって断ることができず,箸をちょっとつけた程度で済ませました。レバー刺しは厚生労働省から禁止されていますが,鶏刺しも将来は禁止される方向にいくのではと思っています。食中毒の届けを出さないだけで,現実にはたくさんの食中毒があるわけですから。

 インフルエンザは徐々に患者数が減ってきて,週5人とようやく一桁台になりました。最近は,よほど疑わしい患者さんに限ってインフルエンザを検査しています。ほとんどがB型のインフルエンザで,地域によっては少し流行がみられていますが,鹿児島県ではどこも一桁台の患者数になっています。私の予想では,5月いっぱいで患者発生は0になるのではと思っています。水痘も流行は小さいですが,続いています。今年秋から予防接種が定期接種になり,無料で受けられるようになれば,来年はほとんど流行しなくなるだろうと考えられます。ワクチンで免疫をつけた子どもが多くなれば,水痘はそれほど強い感染力を持たないため,大流行することは考えにくいです。

 手足口病とヘルパンギーナが出始めました。この季節から始まり,6~7月がピークになる夏カゼですから,これから気をつけた方が良いでしょう。のどを痛がる時に,口の中を覗くと,のどの一番奥に赤くただれた口内炎様のものが見えればヘルパンギーナ,手前の方に口内炎があれば手足口病を疑います。手足口病では,手のひらや足の裏にも小さな水疱がみられます。また,手足口病と紛らわしいのがヘルペスウイルスによる歯肉口内炎です。この病気も口の中にたくさんの口内炎ができますが,歯茎が赤く腫れるのが特徴で,歯磨きの時に出血したりします。

サンタ通信No178(05)裏 H26.05.18発行

    麻疹・風疹ワクチンを忘れずに

 6〜7年前に,麻疹(はしか)が東京の大学生などに大流行し,多くの大学が休講する事態になりました。その時の対策として,麻疹・風疹混合ワクチンを,1歳代で1回接種し,小学校入学前に2回目を受けるようにと,それまで1回接種だったのが,2回接種に変わりました。それ以前は,1回のワクチンで一生の免疫ができると言われていました。その頃は麻疹の流行が時々みられ,1回の予防接種でついた免疫力は,周囲の麻疹患者と接触することにより,免疫が刺激され,ウイルスに対する高い抗体価が長期にわたり維持できました。ところが,多くの人が予防接種を受けるようになると,流行がほとんどなくなり,患者に接することによる刺激が受けられなくなった免疫力は,時間経過とともに低くなってしまいました。免疫力が落ちると,麻疹ウイルスに感染した時に,抑えきれず,発症してしまうようになります。大流行が起こってから,国は麻疹・風疹の2回接種が必要ということを認め,平成20年から中学生・高校生に臨時に2回目の麻疹ワクチンを受けさせる緊急事業を行い,同時並行で小学校入学前の1年間にも2回目の予防接種を行い,ようやく日本の麻疹の流行は激減しました。

 日本国内の発生はほとんどなくなりましたが,現在でも海外から持ち込まれる麻疹が,散発的に日本で小さな流行を引き起こしています。東南アジア(特にフィリピン)から持ち込まれることが多いです。大学生や高校生に対しては,対策がとられましたので,この年齢ではほとんど流行はなくなっていますが,ワクチンを受けていない0歳児や1歳児が麻疹にかかりやすくなっています。麻疹は,子どもがかかる感染症の中で,最重症の病気です。麻疹にかかって,命の心配をしなくてすむように,1歳のお誕生日以降,なるべく早く,麻疹・風疹の予防接種を受けさせるようにしましょう。さらに,幼稚園の年長組になった時も,早い時期に2回目のワクチンを受けるように心がけましょう。年度の終わり頃になって,ようやく予防接種を受けに来られる方もいらっしゃいます。3月末が期限という中,ギリギリのタイミングで接種に来られて,来院時発熱があり,接種を受けられず,4月になってから自費で1万円を払い,接種しなければならなかった子どもを,何回も診ています。接種期間に1年間の余裕を作っているのは,そんな突発的な病気で,しばらく受けられなくなることもあるからです。ギリギリのタイミングで受けるのではなく,早めにワクチンを受けることを習慣にしましょう。もう先送りができない状況で,接種に来られた場合,少しくらいのカゼ症状があっても,仕方なく接種することが多いです。風疹も首都圏や関西圏で流行がみられており,流行を食い止めるためには,予防接種対象年齢の全員がワクチンを受けるようにすることです。風疹は妊婦さんに感染すると,赤ちゃんが先天性風疹症候群になる可能性が高く,ワクチンを受けるだけで,それが予防できるのですから,是非受けておいてくださいね。

    沖縄に伝わる信仰について

 今年のゴールデンウィークは友人からの誘いがあり,石垣島でダイビングをしてきました。マグロ漁船のオーナーが,チャーター船を持っていて,その船で自炊しながら,西表島,黒島などのダイビングポイントを巡る旅をしてきました。10年前にも,同じ船でダイビングをしましたが,この時はダイビングを始めて3年目のまだ初心者でしたので,石垣島の海に圧倒されて,土地の人々の生活がどういうものか見る余裕もありませんでした。今回は,10年ぶりに西表島の中のさらに陸の孤島になっている船浮の集落に船を着けたので,前回泊まった民宿がまだ残っているのか,見に行ってきました。夜明け前に鶏が鳴き,古い建物に雑魚寝して,朝ご飯は,庭のテーブルでいただいたのをかすかに覚えていましたが,その民宿は今も残っていました。でも,今回,集落を散歩していたら,沖縄に昔からある御嶽(うたき/おん)を見つけました。船長さんはそこで掌を合わせて,一心に拝んでいました。沖縄にはノロという地域の祭祀を執り行う女司祭がどの集落にもおり,その土地の豊穣を願い,祖先を祀り,災いを払うなどの宗教的儀式が行われていました。その神聖な場所が御嶽で,沖縄には数多くの御嶽があります。最終日に竹富島にも行きましたが,この島には28カ所の御嶽があると言われており,小さな島を歩くと,あちこちに御嶽の道標がありました。地縁,血縁を大事に,厳しい離島での生活を集落で守ってきたことが推測されます。そんな島にリゾートホテルがありました。1泊一人5万円からというホテルは,40棟くらいのビラタイプの客室をもち,敷地内には宿泊者以外は立ち入りを禁じていました。島の素朴さと観光開発の両立は難しい問題ですが,癒しを求めて訪れるリゾート施設のはずです。島の自然の中で遊ばせてもらっているという感謝の気持ちがないと,島に住む人々とのすれ違いが大きくなりそうだと感じました。