2か月毎のサンタ通信にして,毎月通信を作る手間は半減しました。ただ,2か月分のまとめをしようと机に向かうと,さて先月はどんなことがあったかなと思い出すのに苦労することが分かりました。記憶力も少しずつ衰えていくのでしょう。毎週,感染症毎に発生数を鹿児島市に届けていますので,その報告書を見ながら,10月末の1週間は手足口病が18人で,インフルエンザが2人,新型コロナ感染症が1人だったのをみると,現在は感染症の流行は落ち着いている印象です。
最近1週間(11月4日~10日)の感染症情報です。1週間で最も多かったのは手足口病で週9人でした。その他は,ヘルパンギーナ3人,アデノウイルス感染症1人でした。新型コロナ感染症やインフルエンザは0人です。発熱で受診されても,検査を希望されない方が目立つようになりました。年齢や全身状態を診て,こちらから検査を勧めることもありますが,全身状態が良い患者さんについては,検査なしで経過をみることもできます。
マイコプラズマの流行については,マスコミでよく取り上げられていますので,皆さんよくご存知だと思いますが,報告しているのは県内12の基幹病院だけになります。鹿児島県内のマイコプラズマ肺炎は,2020年は21人,2021年は1人,2022年と2023年はゼロだったのが,2024年に257人と急増し,過去10年の最多を更新しています。昔は4年に1回の流行が見られ,ちょうどオリンピック開催年に重なっていましたので,今年はマイコプラズマが流行する可能性がありました。コロナのためにマスク生活をしていた2年間にマイコプラズマは流行が完全に抑えられましたが,反動で大きな流行になってしまったのだと思われます。マイコプラズマは細菌による感染で,飛沫感染しますので,咳をする人がマスクをすれば,流行を抑えることができますので,咳エチケットを続けましょう。
手足口病は夏カゼですので,例年ならこの時期は少なくなりますが,今年は流行が続いています。幸いなことに,髄膜炎など重症の合併症を起こした方はいらっしゃいません。発熱もほとんどなく,口の中の痛みと手足の発疹で来院されます。サッカーの試合に出られますか?などの質問もよく受けます。軽い手足口病でも,無理をさせてウイルス性髄膜炎を起こすことは時々経験しますので,発症後1週間くらいは激しい運動は避けた方が良いでしょう。
11月は24日(日)が休診です。
12月は8日(日)と22日(日)が休診です。年末年始は12月29日〜1月6日までとなります。
1月2日は当番医を担当します。1月7日(火)は診療日となります。
マイコプラズマは細菌の一つですが,ウイルスに近いと言われます。細菌とウイルスの大きな相違点は,細菌は生物なのに対し,ウイルスは生物とは言い切ることができず,生物と非生物の中間的な存在になります。細菌は単細胞の生物で,細胞分裂により増殖します。水や糖などの栄養さえあれば,自身のみで増殖できます。ウイルスは生物の細胞に感染する複合体で,細胞ではありません。ウイルスは生きた細胞の中に入り,その中で細胞の機能や構造に頼りながら増殖します。構造を見ても,細菌は細胞壁と細胞膜に囲まれた構造をしているのに,ウイルスは中心にある核酸を取り囲むタンパク質の殻や膜成分で構成されています。つまり,細胞壁を持つのは細菌だけなのですが,マイコプラズマにはその細胞壁がないのです。
体の中に細菌が入り込んで,咽頭炎・扁桃炎・肺炎・尿路感染症・中耳炎などの炎症が起こります。そうすると,人間の体は熱を出してその細菌を殺そうとします。それだけで菌を抑え込めない時は,抗菌薬を使って治療をするわけです。そこで役に立つのが,ペニシリン系やセフェム系といった抗菌薬です。これらの薬は細菌の細胞壁を壊して細菌を殺します。人間の体には細胞壁はないため,人間の体には作用せず,細菌だけを殺してくれる優秀な薬です。しかし,マイコプラズマには細胞壁がないため,これらの抗菌薬は効果がありません。細胞内のタンパク質に効果があるマクロライド系や細菌の増殖に必要な酵素を抑え込むニューキノロン系の抗菌薬がマイコプラズマには効果があります。長年使用されてきたマクロライドに耐性をもつマイコプラズマが増えてきたということと,味が悪くて飲みにくいという欠点があり,小児科ではニューキノロンを使うことが多くなっています。ただ,このニューキノロンは感染症の切り札的な抗菌薬ですので,頻繁に使ってしまうと,耐性菌が増えてきて将来困ることになるため,症状が軽い時は抗菌薬を使わずに,咳や鼻水の薬だけで経過をみるようにしています。もともとマイコプラズマは自然治癒することが多く,重症例だけ抗菌薬が必要と考えている医者もいます。
年齢からみても乳児や幼児では感染してもあまり症状が出ないことが多く,小学生から中学生の方が肺炎を起こすことが多いです。5 歳未満の小児の肺炎の原因としてはマイコプラズマは頻度は低く,学童期や若年者では肺炎の主要原因になっています。例えば,クラスにいた患者からうつされてマイコプラズマに感染した場合,潜伏期間2~3週間で発症してきます。兄弟がマイコプラズマにかかった場合,2週間経って兄弟が発症することになります。最初の症状は発熱,全身倦怠感,頭痛などで,咳は初発症状出現後3~5日から始まることが多く,乾いた咳です。咳は徐々に強くなり,解熱した後も長く続きます。次第に湿った痰がらみの咳になることがあります。診断のための検査としては,迅速検査のキットが各社から販売されていますが,感度が低かったり,偽陽性が多かったりと,信頼性に疑問があり,以前は当院で使っていたこともありましたが,今は使っていません。PCR検査のひとつでLAMP法という検査があり,マイコプラズマの特異的なDNAを確実に検出しますので,信頼性は非常に高いのですが,検査センターに提出して結果を出してもらう必要があり,すぐに結果が出ません。血液検査も病初期と回復期の2回セットで採血しなければならず,治った後に確定診断することになります。そういった事情で,マイコプラズマの診断は難しいのです。
今日も半日前からの発熱で受診された小学生を診察した時,発熱以外は症状がなく,クラスにマイコプラズマとインフルエンザがいるとのことで,インフルエンザを検査して,違う時はマイコプラズマが疑わしくなりますと話しましたが,インフルエンザの陽性が出てくれたので,確定診断できて治療することができました。